M&Aにまつわる疑問解消
【2023年1月更新】 今回は、M&Aにまつわる疑問についてピックアップしました。
早速ご紹介してまいります。
中小企業がアドバイザーを起用した場合のM&Aプロセスと所要時間はどうなるのか?
■M&Aプロセス
一般的なプロセスは図表1のようになります。
ただし、事案によって一部手続きの省略や、反対に一部手続きに多くの時間をかけることもあり、必ずしもこのプロセス通りにいくものではありません。
■M&Aの所要時間
個々の事例ごとに進行スケジュールは異なります。
一例として、中堅・中小企業のM&Aであれば、M&AプロジェクトとしてスタートしてからM&A成立まで最短で3ヵ月程度、通常5ヵ月から9ヶ月ほどかかります。
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大企業vs中小企業、規模にみるM&Aの違いとは?
M&Aは“株式や事業を売買する経済行為である”という点では規模による違いはありません。
しかしながら、中小企業のM&Aは、よく耳にする大企業同士のM&Aとは異なる面が多々あります。
大きくまとめると以下の4つの点で違いがあると言えます。
■M&Aの目的の違い
┗大企業 :投資家を意識した株式価値の維持・向上や、収益拡大を目的とするものが一般的。
┗中小企業:後継者問題の解決や、経営革新に向けた事業の選択と集中などの戦略を目的としていることが多い。
■株式譲渡価格の目安の有無
中小企業のM&Aにおける株式譲渡価格には、絶対的な基準というものが存在しないのが特徴です。
純資産価額法や収益還元法による算定価格が、譲渡価格のおおまかな目安となります。
ただし、最終的にはあくまでも“売り手と買い手の間で合意できた価格”がその会社の譲渡価格ということになります。
■M&A交渉における優先事項の違い
┗大企業 :株主利益保護の観点から基本的には譲渡価格の条件が最優先事項となる。
┗中小企業:従業員の雇用確保や会社の更なる発展、買い手企業の社風・経営方針などが重要視される傾向がある。
■M&A情報の匿名性が確保されているか否か
┗大企業 :証券取引所の定める適時開示基準に該当した段階でM&A交渉の事実を開示することとなる。
┗中小企業:最終的な売買契約が終わるまでM&A交渉の事実を秘密にされることがほとんど。
従来M&Aとは、大企業や上場会社が行う経営手法であるとのイメージでしたが、現在では中小・零細企業の経営者にとっても身近なものとなっています。
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M&Aを「仲介業者」等に依頼する際、どのような質問で力量を測るか?
■初級M&Aアドバイザーであれば回答できる10の質問
1. 企業価値算定において、「ディスカウンティッド・キャッシュ・フロー(DCF)法」を用いて算定するに当たり、β(ベータ)値がマイナスの会社の評価はどのように考えていけば良いでしょうか。
2. 数年前の産業競争力強化法等の一部改正により、何がどのように変わったのか、分かりやすく説明してもらえますか。
3. 一時期流行していた上場企業の非上場化、いわゆるMBO(マネジメントバイアウト)により、何が問題・課題となりますか。
4. 買収するに当たり、買収側の会社が買収資金の設計について「どのような手法で調達するのか」を、譲渡側である我々が確認する必要があると思いますか。ある場合、なぜその確認の必要があるのでしょうか。
5. 上場会社に買収を検討してもらうことになりそうですが、事前に留意しておくべきことはありますか。
6. 新株予約権の評価は通常の株式の評価と同じように考えれば良いのでしょうか。
7. 株式譲渡に際しての適正な価額とはどのように考えれば良いのでしょうか。
8. 今回、事業譲渡で譲渡を行う予定なのですが、譲渡益が多額に発生することになりそうです。この場合のM&Aにおける交渉では、どのような点で買収側と交渉を進めることで優位に立てそうですか。
9. 買収対象となる当社が資本金額が大きく、かつ株価についても強気で攻めたいと考えています。買収側が折り合うための良い案はありませんか。
10.ある程度まで案件が進んだ時に、より良い交渉条件の相手先が現れた場合、または、そのような可能性がある場合も含めて、どのような進め方をしているとリスクヘッジできるでしょうか。
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M&Aの際、会社の借入金や個人の連帯保証はどうなるのか?
個人保証に関するガイドライン、正式には「経営者保証に関するガイドライン」が金融庁から発表されています。
《令和元年12月24日公表》のものには以下のような記載があります。
・前経営者は、実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に該当する可能性がある。令和2年4月1日からの改正民法の施行により、第三者保証の利用が制限されることや、金融機関においては、経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることを踏まえて、保証契約の適切な見直しを検討することが求められる。
・ 保証契約の見直しを検討した上で、前経営者に対して引き続き保証契約を求める場合には、前経営者の株式保有状況(議決権の過半数を保有しているか等)、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案して、保証の必要性を慎重に検討することが必要である。特に、取締役等の役員ではなく、議決権の過半数を有する株主等でもない前経営者に対し、止むを得ず保証の継続を求める場合には、より慎重な検討が求められる。
・ また、本特則第2項(4)のとおり、具体的に説明することが必要であるほか、前経営者の経営関与の状況等、個別の背景等を考慮し、一定期間ごと又はその背景等に応じた必要なタイミングで、保証契約の見直しを行うことが求められる(根保証契約についても同様)。
上記の通り、第三者に該当した売主は“保証を外せる機会が与えられている”と読み解くことができます。
このように、個人保証を外すということも可能ですが、買収側にこの責務を負わせるという交渉もあり得ることは事実です。
誰が労力をかけるのかについては、その時々の交渉のパワーバランスで変わってきます。
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事業承継におけるM&A活用の留意点~個人保証は外れるのか?~
会社の代表者からも外れ、株主としての権利の一切を他社に渡す場合、「個人保証の地位」はどうなるでしょうか。
1つ前の質問でもお答えした通り、
“交渉の結果、または特定のスキームを用いることで個人保証を外していくことが可能”です。
基本的には、
・保証の付け替え
・完全に保証を外す
というアクションのいずれかになります。
当然のことながら、何もしなければ「個人保証を外す」ことは起きず、株主や代表者から外れているのにも関わらず「個人保証だけ残ってしまう」ことになってしまいます。
M&Aによる事業承継において個人保証を外していく際には、売主の立場から買主へとしっかり交渉する必要があります。
また、これは企業価値にも関わってくる大事なポイントです。
とはいえ、個人保証は一概にすぐに外せるものではないためこの点も注意しましょう。
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次回予告
次回のまとめ記事は「事業承継問題について考える」をお届けします。
お楽しみに。
―次回更新予定:5月31日(月曜日)