大企業vs中小企業、規模にみるM&Aの違い
M&Aは、株式や事業を売買する経済行為であるという点では規模による違いはありません。しかしながら、中小企業のM&Aは、ニュースなどでよく耳にする大企業同士のM&Aとは異なる面が多くあります。これは、一般的に中小企業が厳しい情報開示義務を負わない未上場企業であり、所有と経営が一致したオーナー経営を行っていることとも大きく関係しています。
※ここでお伝えする大企業とは上場企業のみに限ります。
M&Aの目的の違い
大企業のM&Aは、投資家を意識した株式価値の維持・向上や、収益拡大を目的とするものが一般的です。国際的な競争力をつけたり、収益性を高めるために不採算部門からから撤退し他社に引き継いでもらったり、同一事業を買収していくことによりスケールメリットを図ったりという、競争力の強化や収益性の一層の向上を目指すために、その過程では、営業拠点の閉鎖や従業員のリストラなど、相当の痛みを伴うこともあります。
一方、中小企業の場合は、会社が未来永却に存続していくための切実な問題が関わっているケースが多く見受けられます。M&Aで譲渡を希望する企業の多くは、後継者問題の解決や、経営革新に向けた事業の選択と集中などの戦略を目的としています。
株式譲渡価格の目安の有無
中小企業のM&Aにおける株式譲渡価格については、絶対的な基準というものが存在しない点が特徴です。価格交渉を行う上で、非上場企業の価格算定方法である純資産価額法や収益還元法による算定価格が、譲渡価格のおおまかな目安となります。ただし、目安の算定価格は出せるものの、中小企業の場合は、あくまでも売り手と買い手の間で合意できた価格が、その会社の譲渡価格ということになります。
M&A交渉における優先事項の違い
譲渡価格について、上場企業の場合、株主利益保護の観点から基本的に譲渡価格の条件は最優先事項となります。一方、中小企業のM&A交渉においては、譲渡価格が必ずしも最優先事項にはならず、どちらかというと従業員の雇用確保や会社の更なる発展、買い手企業の社風・経営方針などが重要視される傾向にあります。
M&A情報の匿名性が確保されているか否か
売り手企業にとって、自社の売却を計画・交渉している事実が公になることは、死活問題になりえます。これは、計画が広まった際の社内の大きな動揺や、企業売却の意図が取引先、金融機関などに伝わった場合の取引への悪影響が危惧されるためです。
上場企業の場合は、証券取引所の定める適時開示基準に該当した段階でM&A交渉の事実は開示することとなります。しかし、中小企業のM&Aでは、経営者自身も周囲の目を気にして、秘密裏にM&Aを進めていくことを望む場合が多いため、匿名性の確保が重要となり、最終的な売買契約が終わるまでM&A交渉の事実は秘密にされることがほとんどとなっています。
おわりに
従来M&Aとは、大企業や上場会社が実行する特別な経営手法として理解されていました。しかし現在では、中小・零細企業の経営者にとっても「M&A」という言葉自体が身近なものとなっています。近年では、2000年の商法改正、2006年の会社法の施行も追い風となり、M&Aは重要な経営戦略として認識されつつあります。
中小企業のM&Aは、経営戦略に加えて、上記のような義理人情的な性質も持っているといえます。