「事業承継問題」について考える
【2023年1月更新】今回は、全国的に問題視されている「事業承継」についておまとめしました。
早速ご紹介してまいります。
事業承継のパターンとそのメリット・デメリット
オーナー企業における事業の後継者は、主に次の4つに分類できます。
①オーナーの親族への継承
②企業内の幹部への継承
③外部からの経営者への継承
④M&Aによる事業承継
これまで日本においては内部の人材による継承が一般的でしたが、経営者の後継者不足に悩む昨今では、M&A等の外部人材による継承も広まってきています。
それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、詳しく解説していきます。
①オーナーの親族への承継
■メリット
・経営方針がそのまま継承されやすい。
・後継者を早期に確保できるので、事業承継に向けた十分な準備期間を確保できる
■デメリット
・経営権を譲り受ける親族が先代と同等の経営能力を有しているか不明確である。
・相続人が複数いる場合、後継者以外の相続人への公平な財産分与についての配慮が必要となる。
②企業内の幹部への継承/③外部からの経営者への継承
■メリット
・経営能力の高さを基準にして、承継者を選定することができる。
・経営方針や体制などそのまま引き継ぐことができる。
・同族以外に譲渡するため、前オーナーの財産分与など“争族問題”に発展しにくい。
■デメリット
・株式等を取得するための資金力が無い場合が多く、贈与しても贈与税が発生する。故に、経営権は承継できても、所有権は承継できない。
・銀行の融資などに対し、前オーナーが個人保証している場合、金融機関の理解を得難く個人保証を解除しにくい。
また、オーナーである現経営者から株式を買い取るかどうかで以下の二つに分かれます。
→MBO(従業員がオーナーから株式を買い取って、経営権を取得する)
→所有と経営の分離(従業員は、株式を買い取らずに経営を執り行う)
④M&Aによる事業承継
■メリット
・シナジーのある譲渡先に譲渡することで、事業を拡大することができる。
・従業員の雇用なども維持されやすい。
・前オーナーの個人保証は基本的に解除される。
・意思決定が早いと短時間で譲渡が可能。
・前オーナーは株式や事業の譲渡により創業者利益を獲得できる。
■デメリット
・企業文化の融合に時間がかかる可能性がある。
・M&Aの手続きが煩雑(アドバイザーを起用することで補填できる)。
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後継者不在で一時は廃業を検討するも、M&Aでハッピーリタイアを実現
こちらについて1つの事例をご紹介します。
創業者が一代で築きあげた包装資材の製造会社の例です。
販売先は県内の食品製造会社や引越業者を中心に関東全域まで及んでおり、経営基盤は安定していました。
しかしながら、オーナーがご高齢で健康上の問題もあることからリタイアを考え始められたのです。その時、親族内に後継者はいませんでした。
廃業するしかないのかと半ば諦めかけていた時にM&Aのことを知り、弊社へご相談がありました。
最終的には、経営から身を引く際にM&Aによる譲渡をしたいと決意されました。
今回の事例で買い手候補にあがったのは、引越関連材料全般を扱う企業でした。
買い手側から見たメリットが大きかったこと、売り手側が事前に企業価値を高めるための改善ができたことにより、想定よりも高い譲渡価格でM&Aが成立しました。
オーナーは、取引先に迷惑もかけず、社員の雇用も守ることができ、ホッとされていたのが印象的でした。
廃業は、企業の社会的責任や取引先との信頼、社員の雇用など、全てを一瞬にして無にしてしまいます。後継者不在の場合、M&Aによる承継も検討に入れてみてはいかがでしょうか。
【この記事に関する詳しい解説記事はこちらです】
廃業せず事業承継という選択肢を考える。引退後の会社についてはプロに相談しよう。
経営者が引退する際の選択肢には、事業承継なのか・廃業なのか、事業承継であれば後継者(親族や社員など)へ継ぐのか・他社に譲渡するのか、が考えられます。
どの選択肢を選ぶべきか迷っていらっしゃる方は、ぜひ専門家にご相談することをおすすめします。
・事業承継支援サービスに相談
事業承継支援サービスであれば、事業承継・廃業いずれを選んだとしても、どのような手続きを踏めばいいかアドバイスをもらうことができ、スムーズに作業を進められます。
・その他、事業承継支援サービス
経営者が活用できる事業承継支援サービスとしては、以下のサービスが挙げられ、それぞれ専門分野が異なります。
(1) 商工会など
(2) 金融機関
(3) 税理士・弁護士などの士業
(4) 自治体など
(5) M&Aアドバイザー
中でも、M&Aアドバイザーへの需要が高まっています。
■M&Aアドバイザーを活用するメリット
・経営者の引退相談を事業として行っているため、これまで様々なケースに対応しており、資金面だけでなく事業面等においてもアドバイスできる。
・様々な企業とのネットワークから、他社へ事業承継を行う際に引受先の企業を見つけられるだけでなく、より信頼性の高い企業を引受先に選ぶことができる。
経営者が引退を決めるときは、ぜひM&Aアドバイザーに相談することをおすすめします。
【この記事に関する詳しい解説記事はこちらです】
事業承継に失敗した事例4選
《ケース1》
親族へ引き継いだが、経営権のない親族とトラブルになる
ある企業の社長には2人(共に男の子)のお子さんがいました。社長は引退するにあたり、長男に経営権を譲り、次男には会社の株の一部を相続させました。長男は社長となり企業経営を行います。次男は資産としてその企業の株を相続しましたが、他企業へ勤めているため企業の経営自体には関与しません。
しかし、後に問題が発生しました。長男は企業経営に集中し、経営状態が悪化したときも何とか立て直そうとやりくりしましたが、次男は株主であることを理由に、配当を要求するという行為に出てしまったのです。次男の配当要求により、企業は利益を活用することができなくなりました。
*ポイント
次男に株を相続させるにあたり、次男も長男と一緒に経営へ参画していれば、問題は起こらなかったことでしょう。経営と所有を分離することで株主が経営を監督する機能を発揮することもできますが、経営の足かせになることもあるため、十分に考慮する必要があります。
《ケース2》
引退とは名ばかりで、前社長が経営に関与し続ける
ある企業では、親族に経営を譲り、社長は引退しました。しかし、事あるごとに経営に対してクチを挟んできます。従業員は、実質の権力者は前社長であると感じ、前社長の機嫌を伺い、現社長からは遠ざかってしまいました。そのため、引き継いだ現社長は、従業員からの信頼が得られず、自分の思い通りに経営ができないことから、経営に対するモチベーションが下がってしまいました。
*ポイント
経営を引き継いだからには後継者に経営を任せなければいけません。もし後継者側から相談を持ち掛けられた場合には相談にのるべきでしょう。それまでは経営への関与は極力避けましょう。
《ケース3》
後継者の決定を先延ばしにしたことで混乱が生じる
ある企業では、後継者が決まっていない状態で、突然、社長が他界してしまいました。その後、関係者で話し合いを行い、親族が経営を引き継ぐことになりましたが、何から行えば良いのか分かりません。取引先に迷惑をかけるだけでなく、従業員へも影響が出てきます。
*ポイント
早い段階で後継者を決めておけば、後継者に経営を学ばせることができるだけでなく、経営者としての自覚も身に着けさせることが出来ます。もし後継者がいないのであれば、その後に備えて遺言を残しておくだけでも混乱を避けることが出来るでしょう。
《ケース4》
事業承継に対する考えを親族や従業員に相談せず決めてしまう
ある経営者は単独で、他社へ売却することで事業承継をすることを決めていました。親族や従業員など誰にも相談しなかったことで、売却先への交渉はスムーズに進みましたが、売却することを突然知った親族や従業員からは反感を買うことになりました。そのため、多くの従業員が退職してしまい、事業の存続が危ぶまれることにもなりました。
*ポイント
引退後も事業を存続させたいのであれば、決定する前に周囲に相談するなど、出来るだけ同意を得られる状態にすべきでしょう。
【この記事に関する詳しい解説記事はこちらです】
次回予告
次回のまとめ記事は「事業承継とM&A①~オーナー企業~」をお届けします。
お楽しみに。
―次回更新予定:6月7日(月曜日)