ユニゾホールディングスに対するTOB~ブラックストーンの買付意向表明~
PRTimesでのリリース
TOBの直近の動きの中では、ユニゾホールディングスに対するTOBは異色のものと言わざるを得ないでしょう。
特に、
「ブラックストーンによるユニゾホールディングス株式会社株式(証券コード:3258)に対する1株当たり5,000円での公開買付けを同社の同意を条件として開始する意向に関するお知らせ」
をPRTimes(株式会社 PR TIMESが運営するプレスプラットフォーム)を通じて発表を行った点は、奇異に見えました。
そもそも現在のユニゾホールディングスに何が起きているのでしょうか。状況を整理したいと思います。
直近の状況
直近では、ユニゾホールディングスは、このブラックストーンによるTOBに関して「当社の企業価値の維持・向上及び株主共同の
利益の確保に資するものとすべく、引き続きブラックストーンと協議することを決議」したと発表しています(2019年10月29日時点)。
ユニゾホールディングスについては、前回の記事で記載した時点では、(カッコ)内は買付価格
・HIS(エイチ・アイ・エス)がユニゾホールディングスに対するTOB表明(3,100円/株)
・フォートレス(ソフトバンクグループファンド)が対抗TOB表明(4,000円/株)
までを記載し、それで終わりか、と思いつつも、更に
・ブラックストーンによるTOB表明(5,000円/株)
が出てきており、読者の方々も、もはや何がなんだか、という状況ではないかと思います。
当初、HISがTOBを表明した段階では、ユニゾホールディングスとしては焦りが見られ、どこかにホワイトナイトはいないものか、と奔走した結果として、フォートレスが出てきた、ということでした。
一時的に、フォートレスを担ぐことにより、HISはTOBに失敗し、このTOB合戦からは潔く(?)身を引くこととなりました。
通常であれば、ここでフォートレスがTOBを成功させ、終了、という流れになっていたかと思われますが、ここでユニゾホールディングスは「とある条件」をフォートレスに対して、後出しじゃんけんをすることで、フォートレスによるTOBも困難なものに持ち込みました。
「買収提案者の取り分と出口(ファンドによる株式売却)の時期・方法を合意書に明記し、出口の時期・方法を従業員持ち株管理会社が選択できる」
がとある条件の正体ですが、このような条件をもとに行われたTOBはなかったと記憶しています。
相手方の出口戦略は、特段、投資時点では必ずしも明確ではないことが常ですし、仮にそこに何らからの法的拘束力を持たせる、ようなことがあれば、投資家側としては、イグジットが縛られてしまうことも想定でき、投資に二の足を踏んでしまうこととなります。
さらに、買収提案者の取り分、という生々しい情報を出せ、と言われて、
「われわれはこれだけ儲かるんです」
と声高に宣誓する会社はないのではいか、とそういった思惑の下、ユニゾホールディングスはフォートレスに事実上のTOBからの撤退を求めた、非常に狡猾な戦術であると思われました。
しかしここで、ユニゾホールディングスにとって、思わぬ相手が登場します。
前述の「ブラックストーン」です。
寝た子を起こした?
海外投資家から見ても、ユニゾホールディングスにこのような状況が起きていることは
「よほど美味しい果実があるのであろう」
という、一種のシグナリング効果があったのかもしれません。
10月15日に、ブラックストーンは上述の通り、奇策
「PRTimesにてTOBを宣言」
したのです。
一部抜粋してご紹介しますと、
「対象者の株主に対して、当社は、1株当たり5,000円という魅力的な価格による買収を提案いたします。かかる1株当たり5,000円という価格は、外部要因の影響を受けていない対象者株式の株価より151%、現存する公開買付けの公開買付価格より25%高い価格となっております。対象者の従業員に対して、当社は、対象者の企業価値を向上させるため、対象者の従業員とパートナーシップを構築することを目指すことに加えて、かかるパートナーシップの一環として、従業員の労働条件を維持ないし改善することを約束し、更に従業員に対し、その大部分が現在は享受していない以下の利益を提供します。」
・企業価値の増加から生じる利益を共有するインセンティブ報酬プログラム(エクイティの保有を含みます。)へ参加する権利
・対象者の株式を取得し、対象者の将来の良好な業績から生じる利益を共有する機会
・対象者の将来の経営方針に関する議論への積極的な参加を可能とするため、対象者の取締役会に少数の取締役を派遣する権利
を掲げ、殴り込みをかけてきました。
従業員に対しても魅力的に見える提案をしてきている時点で、ユニゾホールディングスにおける「経営陣が結束して自己の利益を確保するためにTOBを阻止するような動きをしている」と見て取れ、また、従業員は蚊帳の外、と言ったような状況である、または、ある種、内部から状況がリークされたものではないか、と推察します。
よくよく考えてみますと、ユニゾホールディングスの株主構成の変遷からみると、みずほ系列、と言われたものの、みずほは株式保有割合も3%台と、HISよりも低く、裏では経営者、みずほなどによる様々な画策もあったような記事・報道も見られました。
真面目に取り組んでいる従業員こそいい迷惑でしょう。
経営陣が騒ぐだけ騒いで、会社のためになる提案以外は受け付けない、と言われても、現経営体制での会社の変革は望めないでしょうし、むしろこのような非常識な条件を国内外に喧伝するような状況は、正常なガバナンスが働いている会社と見ることはできない、と筆者は断じます。
一部の、特に経営者による利益、この場合は、ユニゾホールディングスの経営者である、という立ち位置、立場を固守・堅持することと思われますが、そのような状況こそ、株主利益に反し、ひいては、自らの企業価値向上の施策を棚上げしつつ、既存投資家の利益を損なっているだけではないでしょうか。
ブラックストーンは、この後の文書の中では、ユニゾホールディングス側の経営陣がむしろ会社の企業価値を毀損する行為を採っている点を挙げており、その中には、まさに、
・ユニゾホールディングスが出した仕組みが古今東西前例がなく異常なこと
としつつも、
・従業員の利益に対しては将来収益を果実ということで、条件に応える
といった表明をしたのです。
これはさすがに、ユニゾホールディングス側も焦ったとみられ、ごくごく短期間に、周辺のファイナンシャルアドバイザーやリーガルアドバイザーが寝ずに考えたであろう、継続協議をします、という表明を出すに至りました。
何よりも、5,000円/株を超えるような条件や、価値はこれ以上望めないと思われます。
まとめ
今回は、いったんユニゾホールディングスを取り巻く直近の動きを整理しました。
現在の
・ユニゾホールディングスが出した前例のない買収提案者への「仕組み」(条件)
に対して、前例のない
・PRTimesでの買い付け表明を出したブラックストーン
が今後どのような動きになるのか、動向を見続けたいと思います。