HISの挑戦とユニゾのTOB対抗策
HISの野望
HISは7月10日、旧日本興業銀行系(現みずほ銀行)の不動産会社ユニゾホールディングスに対し、TOB(株式公開買付)を開始すると発表しました。
7月11日から8月23日までTOBを実施し、最大1375万株、発行済み株式数の45%を上限に買い集め、買い付け価格は7月9日の株価に56%上乗せした1株3,100円で、総額427億円を投じる計画です(ユニゾの株価は8月16日株価の終値で4,165円)。
HISがこのTOBに乗り出してきた背景とともに、状況を見ていきたいと思います。
HISは旅行事業が主事業であり、売上高の9割を占めます。残りはハウステンボスなどが収益を稼いでいたものの、直近では集客に苦戦をしている状況で、「変なホテル」を始めとしたホテル事業を急拡大しており、計画もHISも自社ホテル開発やM&Aで2023年までにホテルを100軒(稼働中33軒、建設中・交渉中34軒)に増やす方針を掲げていました。
ユニゾは、東京を地盤にユニゾブランドなどの賃貸オフィスを79物件保有、売上高の8割弱を賃貸不動産が稼ぎ、その他、「ユニゾ」ブランドのホテルを全国で25軒運営しています。
相互の関係値だけを見ると、事業の中で、主事業は異なりますが、
・ホテル事業が事業としては重複事業であり、特にホテル事業は堅調に推移している
という点で、共通点があると見えます。
HIS側としては今回のTOBについて「当社のネットワークと販売チャネルを使えば稼働率を向上させられる。不動産取得やホテル開発などでも相乗効果が見込める」との発表をし、TOBが成立すれば、HISグループのホテル運営軒数は、開発中のものを合わせて92軒に拡大することもあり、宿泊特化型ホテルの国内運営会社として「トップ10入りする」(澤田会長)と発表しています。
標的となったユニゾHDは「当社に対して何らの連絡もなく、一方的かつ突然に行われた」「速やかに当社の見解を公表する」と発表しました。
HISからすると、ホテル事業による事業の多角化の成功は何としても果たしたい思いがあり、ユニゾのホテルグループをとなっているようですが、これには、ユニゾが「株価が割安に放置されていた」ということが考えられそうです。
なぜユニゾなのか
ユニゾの株価は52週最安値では1,756円をつけています。
ここで株価が割安かどうか、の指標としてよく用いられるPBR(株価純資産倍率)を見ていきましょう。
2018年3月期 純資産 1,090億円
2019年3月期 純資産 869億円
株価は2,000円程度を平均値とした場合、発行済み株式総数は34,220,700株式であり、
時価総額 684億円
一株当たり株価÷一株当たり純資産=PBR
ですので、
2018年3月期 PBR 0.78
2019年3月期 PBR 0.62
と共に1倍を割り込んでおり、簡単に言うと、株式の市場での価値が、会社が清算して、すべての財産を分配したのであれば、その方が株主にとっては、旨みがある、という状態になってしまっており、ユニゾの株価が、非常に安価に放置されていた状況であると言えます。
また、ホテル事業を有している中では、中堅規模にして上場をしている、といった点では、ユニゾは格好の的だったと言えます。
意外とホテル事業でアパホテル、東横インは上場もしておらず、買収が公には出来ない会社であり、ビジネスホテル系列の中でも、非常に手が出しやすかった、と言う点、M&Aアドバイザーなどの関与があると考えられます。
ちなみに、本記事の執筆時典8月19日時点では、
PBR1.28倍、時価総額1,400億円
相当となっており、TOBを仕掛ける、対抗TOBで応戦する、といった形に市場がライドオン、フォローオンしてきている状況で、一時的に株価が高まっています。
なお、本株価はあくまで一時的なものであり、この株式価値を発揮するために、どのような戦略と打ち手をもっていくのか、について、言及が乏しいように見えます。
このように、長期間にわたって、ユニゾは業績の伸びが株価では表されず、かつ、中堅規模のビジネスホテルチェーンとして上場している会社で会った点から、HISに狙われる格好となったのではないか、と考えられます。
ユニゾの対抗策
今回、ユニゾは、HISの買収表明並びにTOBに対して、現経営陣は賛同せず、対抗馬としてソフトバンクグループの連結子会社である投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)を選び、フォートレスは関係会社を通じTOBを実施すると発表しました。
しかも、期間中の買付は最大100%の全株式であり、TOBとともに、ユニゾホールディングスは
・上場廃止
の道も視野に入れたと見て取れます。
この行動自体、直近行われているTOB、MBOの流れからも分かりますが、ファンドがいったん買い集め、非上場化(ゴーイングプライベート)し、その後に価値を高めて転売、又は再上場といった目論見の一環と考えられます。
TOB後は、従業員に対して、株価を割り当てるなどと出ておりますので、ともすると本件は
・MEBO(マネジメント・エンプロイーバイアウト 役員や従業員が一体となって非上場化すべく株式の全て又は一部を買い集める)
の様式なのかもしれません。
まとめ
いずれにしても、株価が割安で放置されている会社で、解散価値の方が大きいとみられる会社には今後も、TOBを仕掛けられる余地があることは、企業経営者として、留意し、常に企業価値向上のための努力が求められることは言うまでもありません。
決して、MBOなどが悪いわけではなく、MBOをするに際しても、現時点における理由・背景そして、買付価格の妥当性の説明義務を果たしたうえで、なぜ今MBOなのか、今後の国内株式市場として今回の事例も含めて、企業価値向上に目を向ける機会が増えてきていることは言うまでもありません。