国内上場企業のコーポレートガバナンスの課題①~役員報酬編~
「会社は誰のものか」
11月は、企業の上半期決算発表なども相まってか、企業が誰のものかを考えさせられる事象が多かったように思えます。特に、RIZAP(ライザップ)グループ、スルガ銀行、日産など上場企業においては、改めて「会社は誰のものか」の問いを考えてみる必要があると思わせるものでした。
日産のケースをもとに、どのようなプロセスでくだんの、役員報酬が決定され、決定自体のプロセスに瑕疵(問題)が生じていなかった場合、そもそも真因がどこにあったのか、を考えていきます。
会社は親会社のものか、個人のオーナーのものか、ステークホルダーのものか、はたまた存在影響を及ぼす人々会社すべてのものか、そもそも「もの」と済ませれば終わりなのか、考察すべきかと思います。
「思いのままの報酬なんて可能なのか?」
上場企業の場合、1億円以上の役員報酬をもらっている役員報酬額を個別開示する必要があります。
ちなみに、2018年3月期決算の上場企業では538名が該当者でした。
(出所:東京商工リサーチ)
一般的に、上場企業では「所有」と「経営」が分離され、特定株主の影響を受けにくい状況のはずですが、上場前に議決権を過半数以上所有し、かつ当該会社の代表者であった方が、上場し、過半数もしくはそれ以下を引き続き保有し、当該企業への多大な影響を及ぼしている会社は、上場会社でも多く存在しています。
上場後も大株主が代表者として残り、その会社の陣頭指揮を執っていくことについては、筆者は、これだけで問題になるものではないと考えています。
また、会社経営をしていくうえで、欧米などと比較すると日本企業の「役員報酬」の金額が少ない、といったことが取り沙汰されることも昔からよくある話ですが、そもそも「役員報酬」を適正な金額であったかは誰がどのような形で決めていくことが「フェア」「妥当」なのでしょうか。
仮に、上場している会社で、大株主兼代表者であり、会社に強い影響力を及ぼしたとしても、この場合で問題になる点があれば、株価にも反映されますし、余りに常軌を逸した経営をしていれば、上場の規定のいずれかに引っかかってしまい、上場をしていること自体が出来なくなるでしょう。
また、当該人物の「カリスマ性」と言ったことも同時によく取り沙汰され、その「カリスマ性」を発揮していくために、多額な「役員報酬」や「経営執行」を任せていくことが「良い」ような風潮もあります。
しかし、現実には、今回の日産のケースのように、「役員報酬」の金額について、虚偽の記載(現時点では断定はできない)があったなど、投資家が投資をする際の1つの基準になる、会社の成績表「財務諸表」が記載される「有価証券報告書」に偽りをもって、発表ができる、こういった企業が日産だけではないことは、別のケースですが、過去の騒がした例では、オリンパスや東芝、スルガ銀行など枚挙に暇がありません。
なぜ、上場と言う非常に上場するまでには厳しいルールを課した中でさえも、こうした企業不正が絶えないのでしょうか。
ちなみに、くだんの日産においては、しっかりと「役員の報酬等」について
・確定額金銭報酬は
「平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議」
「年額29億9,000万円以内」
と決定しており、更に「株価連動型インセンティブ受領権」は、
「平成25年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議」
「普通株式600万株相当数」
と決定しています。
これは、「株主総会決議」という、株主によって役員報酬の「金銭報酬額」と「株式によるインセンティブ報酬」の上限を決めているものでこれを見ていると、毎期の上限が決定されており、
「しっかりと決めているじゃないか」
と見て取れますし、これを逸脱するような指示命令、指揮命令があたっとしても、カルロス・ゴーン氏やグレッグ・ケリー氏のみの関与で終わるはずがないのでは、と容易に想像が出来ます。
すなわち、経営者不正の厄介なところは、
「絶対権限者や大株主の存在」
により、周りとの関係値の中で、社外取締役や社外監査役を置こうが、監査監督組織でさえも左右できる
「絶対的権限者が存在する」
ことで組織自体は
してしまうのです。
役員報酬の決定プロセス
「絶対的な権力者の存在とガバナンス」
日産はカルロス・ゴーンというカリスマと、日産の大株主であるルノーの存在もひも解かなければならないでしょう。
大株主のルノーは実質的な親会社として機能しています。そのルノーの代表権もカルロス・ゴーンが握っています。
大株主の代表者であり、日産の代表者でもあり、カリスマとあがめられていた事実から、「絶対的な権力者」として君臨できる立ち位置であった、と想像できます。
このような存在の方にモノが言える内部の方はいるのでしょうか。中々居ないのが現実なのではないでしょうか。
「絶対的権力者の経営者から解雇や退任をさせられたらどうしようか」
「クビになったら勤め先はないし、これだけの地位でいて、急に解雇になるとそれなりの理由がいるが、次の転職も邪魔されるのではないか」
と、社内の人間には、心理的なプレッシャーがかかってしまい、権力者に対して、
「モノが言えない状態」
になります。
これがよく言われている
「形骸化した執行役員制度」
もう1つ。
日産の事例でも、コーポレートガバナンスはしっかりとしているんだ、と有価証券報告書には記載しています。
(日産自動車 第119期「有価証券報告書」より)
今回の件をこの開示資料の則って言えば、西川(さいかわ)社長も同罪ではないのでしょうか?
否、ガバナンス不在に陥った事象を招いた取締役全員の責任を問うべきではないでしょうか?
経営者による不正は、内部統制の限界の1つを示しているため、ここからの示唆は
「絶対的な権力者を創らない」
「絶対的な権力者が居たとしても、長きに渡り、同じ地位に就かせない」
「ガバナンスとして、社外が1/3などではなく、過半数以上を社外の役員で構成させる」
「報酬や指名と言ったことの権限と、組織上の経営執行とを分ける(いわゆる監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社)」
などにより、権力の集中ではなく、
「権力をいかに分散させるか」
「権力を監督する機能を強化するか」
のいずれかになるということでしょう。
まとめ
日本人は特にノーと言うことが苦手な民族だと言われていますが、これまでのオリンパス、東芝「チャレンジ」、スルガ「一族経営」、RIZAP「M&A過多と見せかけの利益増加」、日産「ゴーン政権」など、一極集中し過ぎたがゆえに、ガバナンスも効かず、不正が生じた、ことは、ノーが言えない、と言うよりは、
「ノーを言えない状況であった」
と言うことです。
また、「取締役の報酬」自体は、上記のとおり1億円以上のときは有価証券報告書で記載が必要ですし、また、上限を株主総会決議で決定する、というようなことで、必要なプロセスと開示があるはずです。
重要なのは、それ自体が構成されている会社自体の
「組織構造がどうなっているのか」
をよく見極めていくことでしょう。
その会社の「権限の一極集中」や「長期同一経営陣」が、どこかでほころびを生じる可能性は、絶対にない、とは言えず、今回の事例は決して
「対岸の火事」
と捉えるに終わってはいけない事例だと考えられます。