小規模事業者のM&Aによる事業承継戦略
小規模な事業者の事業承継時のM&A戦略
今回は、国内企業の約7割を占めると言われる小規模事業者(売上高1億円未満)のM&A戦略について採り上げてみたいと思います。
小規模事業者がM&Aを実施する際に、留意すべき点には大きく2点あります。
1.【税務上の論点】
1点目は、以前にも採り上げました「税金」です。
M&Aを実施するに当たっては、
・株式譲渡・・・会社の株式を売買(譲渡又は譲受)する
・事業譲渡・会社(新設・吸収)分割・・・会社の一部分を切り売り・買いする
(吸収分割は、事業譲渡に類似しており、新設分割は、おおよそM&Aにおいては、新設会社の株式を譲渡し、その譲渡対価が分割会社(分割した会社側)に支払われる意味で、株式譲渡も同時に発生する。)
・(吸収)合併・・・買収する会社に売却する会社が吸収する(法人格の一体化)
(国内では、新設合併を採るよりも、対象会社となる官公庁の「許認可」を活かすなどの理由で「吸収合併」が選択されることがほとんどである。新設合併もスキームとしては存在するが、法人格を消去することにより新たな会社を摂理することによるメリットが相当程度必要である。)
・株式交換・・・売却側企業の発行済株式を買収側企業の発行済み株式と一定比率で交換し、買収側企業の完全子会社とする
・株式の一部の交換・・・売却側企業の発行済み株式の一部を、買収側企業の発行済み株式と一定の比率で、交換する(欧米ではよくあるスキームで、エクスチェンジオファーと呼ばれる。)
など、手法が様々あります。
この中で、すべてに共通して、検討の重要性が高い事象は、やはり「税金」です。
税務上、
・個人の所得として株式売却益に対して課税されるのか
・会社の売買において、会社の事業譲渡益に課税されるのか
と課税主体が異なる点や、
・法人に対して課税されたのち、更に個人株主に課税がかかるスキーム(事業譲渡後に、配当で株主に還元する)
・株式の一部交換に至っては、今後の法案が通るまでは、株式に交換したとき、時価が取得金額よりも高い場合、即座に譲渡益が課されてしまい(売買をしていないのに、保有をしているだけなのに、課税がされてしまう!!)、課税対象になる(但し、2018年7月9日、産業競争力強化法等の一部を改正する法律が7月9日、施行され、産業競争力強化法上の特別事業再編計画の認定を受けた場合には、自社株対価M&Aにおいて最大のボトルネックとなっていた売主(株主)レベルでの譲渡益課税の繰延べが実現されることとなった点は大きな進歩と言える。)
など、課税の場面が、それぞれ異なります。
・課税主体は誰で、いくらになり、最終的に誰の手元に幾ら残したいのか
を最初に設計することが、根本的に非常に重要になってきます。
今回は小規模事業者の話ですが、すべてのスキームにおいて大規模な場合は、「独占禁止法上の規制」のチェックも必要な点は留意が必要です。この点もアドバイザーや仲介業者が回答を瞬時にできなければ、起用しないほうが良いでしょう。
2.【小規模事業者ならではのM&A手法】
2点目は、小規模事業者ならでは採り得るスキームに事業譲渡があるという点です。
2点目は、小規模事業者ならでは採り得るスキームに「事業譲渡」が選択肢として採り易いという点です。
なお、誤解なきよう申し上げますが、当然大企業であろうが、小規模企業であろうが、法的には事業譲渡は可能です(会社法467条)。
通常、事業譲渡は、会社分割や合併、株式交換など、会社の「組織法上の行為」と区別され、1つの取引とみなされ「取引上の行為」として取り扱われるため、「権利や義務の包括的な移転・承継」が生じることはありません。
要は、面倒くさい手続きがたくさん必要なのが、事業譲渡で、えいやっ!、とまるっと移転でき手続的に事業譲渡と比べると楽なのが、その他の行為です。
(しかしながら、筆者の経験としては、会社分割でも、事業譲渡でも手続きの煩雑さは変わりがないようにも思える場面もあります。)
どういうことか、と申しますと、事業譲渡では、譲渡する対象を取り決めたあと、
例えば、個別の取引契約がA社からE社まで5社存在し、すべてを、事業を譲り受けてくれる会社に譲渡する場合、それぞれの契約を、買収側の企業にて「個別に巻きなおして頂く」といった実務上の負担が生じます。
これは、あらゆる契約において、同様であり、雇用契約も然りです。
このように、事業譲渡には実務上の手間暇が非常にかかってしまうという点があるいっぽう、取引先や従業員数が少ないが、買い手側が、法人ごと買収するに当たっては、業歴の長さから、何らかのリスクを感じるため、
「情報の非対称性による株価ディスカウント」
がかかるような場面に直面した場合で、多額の譲渡に対してのディスカウントが生じるのであれば、事業譲渡で、事業単位を売却し、ディスカウントを防ぐ、といったことも手段として採りえます。
但し、先ほどの話の通り、税務上、残余財産を分配するに際しても、株式譲渡よりもメリットがあるのか、と言う点については、上記のディスカウントの金額と合わせて検討をする必要があります。
また、事業譲渡では、個別の取引になるため、組織単位での包括的な承継では生じないはずである不動産、こと建物に関する消費税の発生も見逃せません。
来年度、消費税増税が待っていますが、個人の不動産取得のみならず、事業譲渡での不動産を法人が取得するに際しても、多額の消費税が発生する可能性があり、今後中止が必要でしょう。
まとめ
スキームにおいては、「事業譲渡と株式譲渡」、「事業譲渡と会社分割」を対比させることがありますが、その対比においては、
・誰が資金を手にするのか「会社か株主か」
・権利義務の移転・承継は「包括的な承継なのか、個別での移転手続きが必要なのか」
を留意し、それぞれのケース別に、税金、譲渡益課税、消費税、更には買収側における「のれんの計上、処理・償却」(事業譲渡であれば、60か月の強制償却が適用され、損金計上の対象となる)などを熟考し、1円でも多くの資金を手元に残していく、そういった「税務絵戦略」と「スキーム戦術」がセットで語られるべきであることをご理解ください。