中小企業の事業承継とM&A①~事業承継を検討中の企業オーナーに共通するポイント~
私がM&Aを通じて、中小企業の事業承継に関与してからすでに13年目に入ります。これまで200社以上のオーナー企業にお会いしてきました。私の過去のM&Aアドバイザリー会社にいた時の経験と、直近の弊社(株)BIZVALでのM&Aアドバイザリー業務での活動と経験を基に、今回はオーナー企業の事業承継とM&Aについてお話します。
この13年間において、M&Aのご相談を受ける、と言うところから、結果として売却ができた、買収をした、はたまたそれに至らなかったケースも含め、様々な企業のオーナーにお会いしました。
思い出深い方々はいくらでもいますが、一部だけ挙げますと以下のような会社のオーナーの事業承継をご支援してきました。
(※なお、あくまで事実ではなく、仮の設定とご理解ください。守秘義務があるため、かなりぼやかして書いていますが、リアリティを持たせるために、状況は幾分合致させています。)
・運輸業を主業としつつ、梅の農園を営んでおられ、それを売却したいという意向があったオーナーの事業譲渡
・餃子、ワンタンを製造する会社を売却したオーナーの株式譲渡(譲渡先は今でも元気に運営してくださっています。)
・先代のオーナーが急死し、切削・加工を請け負う会社の後を継がざるを得なくなった奥様の会社の株式譲渡
・数十年前に奥様と立ち上げた非鉄金属業をご子息に事業承継したものの、うまくいかず、結果として売却を決断したオーナーの会社の株式譲渡
・同じく、一代でとある地方の非鉄金属業の大手となり、大手鉄鋼商社とお付き合いをするオーナーで、娘さんに事業承継をしたものの、やはり、苦労をさせたくない、とお思いになり、売却を決断したオーナーの株式譲渡
・とある県では知らない方がいないほど有名な会社で、娘さんがお二人いるものの、後継ぎがおらず、かつ、やや難度が高い案件であったものの上場企業への売却が出来た電子部品関連の商社のオーナーの会社分割
・本当はもっとやっていきたい、というご意向があるものの、大変残念なことに道半ばで病に倒れ、他に譲渡をせざるを得なくなった施工管理業のオーナーの株式譲渡
会社の譲渡、売却を検討中の中小企業オーナーの想い
ご紹介や、弊社のサイト登録を受け、ご訪問させて頂きますと、まず最初に中小企業のオーナーの方々が仰ることがあります。
「まだ売ると決めたわけではないんだけどね」
「まだこれから事業は10年くらい続け、売上3倍くらいにしていく予定だ」
「うちは、後継者がいるので、問題はない」
これに共通していること、読者の皆様はお分かりでしょうか。
そうです。売却相談、売却の意向がおありだと言うことでご訪問したのですが、ほとんどのオーナーが「売るつもりがない」と仰るのです。
これは、当然背景があります。
中小企業のオーナーにとっての会社の譲渡、売却は、一生に一度あるか、ないかの重要な場面です。
「取引先に知られて、取引が停止になったらどうしよう」
「金融機関に知られて、融資が止まったらどうしよう(怒られた、という経験の方もいらっしゃいます)」
「従業員に知られ、辞められてしまったらどうしよう」
と、様々なご不安がおありの中で、決断を迫られている状況です。
オーナーにとって最も重要な論点は何か、を絞る
見ず知らずの、初対面の我々のようなアドバイザリー会社においそれと、お話して頂く話ではありません。ここは上手にお話を聞きだす必要があります。
・最近の事業上でのお悩みはなんでしょうか。
「環境が激変し、売上が伸び悩んでいる?」
「原材料価格が高騰しており、コストが見合わなくなっている?」
「生産操業度を確保するための人材が不足しており、休業を余儀なくされている?」
・オーナーの家族構成は、どんな構成なのでしょうか。
「ご子息・ご息女らは、別の会社にいらっしゃる?」
「奥様も働いていらっしゃる?」
「オーナー以外にも株主はいらっしゃる?」
等々に、1つずつ質問していき、事業承継をお考えになっている背景に対して、「仮説」を立てていきます。
その中で、その向き合っているオーナーにとって最重要な論点は何か?
例えば、
「老後の資金も含め、相当額で手取り金額を最大化できないか」
「従業員の雇用確保を第一に考えられないか」
「会社が次の会社に譲渡しても、うまく運営をし、大きくしてもらえそうか(地元の名士のオーナーにおいてよく論点になります)」
「金融機関からの債務が相当額有り、個人で入れている連帯保証だけでもなんとかならないか」
など、論点が絞られていくと、ようやく、事業承継とM&Aのお話で、そのオーナーの方が、何にお悩みで、課題感をお感じで、どういった解決策とアプローチが取れるのか、をお話していくことになります。
そのお話と同時に、次のステップに進むにあたり大事なことがあります。それは、オーナー企業が気になっている「価格」と「候補先」についてです。
次回は「ここが具体的にならないと進まない事業承継」をテーマに、お話したいと思います。