事業の選択と集中で、M&Aによる事業譲渡という手段を活用
経営戦略の中において、事業目的を達するために、一度分散し過ぎた経営資源を集中させるため、事業の選択と集中をする場合があります。こういった経営戦略をとる場合の選択肢として、単純に事業の撤退という手段だけではありません。M&Aによる会社分割(会社法2条)や事業譲渡(同467条)という手段により、事業を売却することもできます。
事業譲渡とは
M&A対象企業そのものを売却するのではなく、特定の事業やその一部に関係する資産・負債のみを譲渡する手法を「事業譲渡」と言います。
M&Aによる事業譲渡であれば、事業を譲渡する譲渡会社の経営権を手放すことにはならず、対象となる譲渡事業以外に、コアとなる事業を残すことができ、専念すべき事業に集中することが可能です。
株式譲渡等も同様ですが、譲渡先企業を探すには、自社で取り組むとなかなか候補となる企業が見つからず、時間を要するケースも多いです。また、譲渡候補先企業との条件交渉が難航し、譲渡完了まで時間がかかる、もしくは、交渉決裂といったケースもあります。
スムーズに進めたい場合は、専門家への相談もありますが、まずは自社の経営戦略の見直しを重点的に行い、そもそもの譲渡に対しての経営判断のためのプランニング(経営計画・事業計画)の見直しをする必要があると考えられます。安易にアドバイザーなどに頼るのではなく、まずは選択と集中へ向けた第一歩は、自らを振り返ることでしか得られないのではないでしょうか。
事業譲渡すると、いくらで売れるのか?
事業譲渡の場合の譲渡価格は、売却する対象事業の状態により異なってきますが、一般的な計算方法はこちらの記事をご覧ください。
その記事で紹介させていただいた通り、一般的な企業の価値計算は、
①純資産(簿価又は時価)
②類似会社との比較
③将来価値からの計算
の3つですが、事業の価値試算についても同様のアプローチが採られることが多いです。
会社分割とは?
会社分割とは、会社がその事業に関して保有する権利の全て、もしくは一部を他の会社に承継する取引手法です。2つ以上の会社に分割することも可能です。
会社分割には、権利を既存の会社に引き継ぐ「吸収分割」と、新しく設立する会社に引き継ぐ「新設分割」に分類されます。また、承継先の会社が交付する対価の受け取り方法は、分割会社が受け取る「分社型分割」か、分割会社の株主が受け取る「分割型分割」という2つに分類されます。この分割方法の2種類と、対価の受け取り方の2種類の組み合わせにより、会社分割は計4種類に分類されます。
事業譲渡と会社分割の違い、メリット・デメリット
事業譲渡と会社分割では、売り手企業から買い手企業へ事業の権利が移転するという点で似ていますが、会社法上の組織再編行為に該当するかどうかの違いが出てきます。事業譲渡は組織再編行為に該当しませんが、会社分割は該当します。
事業譲渡と会社分割は、法律上の扱いが異なることから、メリットとデメリットがそれぞれ生じてきます。
a)事業譲渡
・メリット
事業譲渡の決議は、取締役会で決議することが可能です。
債権者保護については、個別同意となるため、調整を行うことができます。
・デメリット
契約関係が個別承継となるため、案件ごとに調整が必要となります。債権の移転については、債権譲渡の手続きが、債務の移転には債権者の承諾が必要となります。
売り手企業の許認可については、買い手企業側で再取得が必要となります。
従業員の承継については、個別に調整(同意)が必要となります。
税制上、時価取引として譲渡損益が発生します。
消費税の課税対象となります。
b)会社分割
・メリット
契約関係を包括承継できるため、案件ごとの調整が不要で、相手方の同意を得る必要がありません。
許認可を(一部を除き)買い手企業側へ自動的に承継できます。
従業員は、労働承継法が適用されるため労働者保護手続きが必要となりますが、基本的に包括承継できます。
税制適格の場合、譲渡損益の繰延ができ、税制非適格の場合、時価取引として譲渡損益が発生します。
消費税が非課税となります。
・デメリット
会社分割の決議は、株主総会の特別決議を行わなければいけません。
債権者については、原則、保護手続きが必要となります。
事業譲渡を検討する際は、まずは専門家にご相談を
M&Aによる事業譲渡を検討している場合、相談先として、弁護士や会計士、自治体や商工会、M&Aアドバイザーなどが挙げられます。
M&Aアドバイザー
M&Aアドバイザーであれば、M&A案件を多数手がけているため、事業譲渡において準備すべきことなど、状況に応じて柔軟にアドバイスを受けることができます。また、M&Aアドバイザーは、ネットワークを活用して様々な業種・企業の中から、事業の売却候補先を選定します。
弁護士・会計士
法務や財務など特定分野に不安がある際は、弁護士や会計士に相談すると良いでしょう。
自治体・商工会
自治体や商工会においては、事業承継の支援策などを紹介いただけます。例えば、中小企業庁では「事業承継補助金」といった補助金もあります。また、都道府県単位で独自に事業承継に伴う支援制度を設置しているところもあります。
まとめ
M&Aの手法(一般的にはストラクチャーと呼ばれます)は株式譲渡といった会社自体の経営権を手放す、譲渡するといった手法だけではなく、今回ご紹介した対象事業を選定した上で、一部の事業だけを切り離し、売却する事業譲渡や会社分割という取引手法もあります。
自社が専念すべき事業分野はどこで、何を伸ばしていき、そのためにどれくらいの資金が必要になるのか、その捻出としてはどういったところからなされるべきなのか。
このような事業の選択と集中の考えを整理したうえで、目標達成の為の経営戦略の一環として一部のみの譲渡である「事業譲渡」といった手法の検討もありえるのではないでしょうか。