「売れる会社」と「売れない会社」の差ってなんですか?
そもそも「売れる会社」とは買い手から見て魅力がある会社、つまり「買い手が投資をして利益があがると考えられる会社」ということになります。買い手の視点によっても異なりますが、M&Aで売れる会社は主に以下の3つのポイントをきちんと押さえています。
1.財務内容
財務諸表である賃借対照表と損益計算書の2種類について、それぞれ以下のポイントをチェックします。
純資産
賃借対照表の「純資産の部」という項目の金額が大きいかどうか、つまり利益の蓄積があり、健全に経営されているか確認します。
借入金の多寡
買い手は買収金額と借入金を、買収した企業の利益から回収していくため、賃借対照表に記載している借入金の多寡は、買収による投資回収を算定する際の重要なポイントとなります。
固定資産
前項の借入金と同時に確認が必要なのが固定資産です。借入金が多くても固定資産が計上されていれば、投資に見合う資産としてある程度許容できます。しかし一方、借入金が多いにも関わらず、固定資産が少なく、反対に売掛債権や在庫が多い場合、「流動資産の部」を見て借入金の使途を探り、賃借対照表の健全性を確認します。
経常利益
損益計算書に記載してある経常利益がマイナスだと、買い手は買収した後、相当の投資をして利益体質へと変換していけなければならず、買い手による投資回収の視点で見通しが立たないと判断されると、M&A対象から外れるケースもあります。
役員報酬
前項の経常利益と同時に確認しておきたいのが、役員報酬です。節税対策のため役員報酬を調整するケースがあるため、経常利益と役員報酬とをあわせて確認し、整合性を図ります。
保険料や賃借料など
前項と同じく、保険料や賃借料なども売り手側の企業オーナーにとって、重要な節税対策の項目、又は資産の賃貸による資産形成を図る項目と成り得ます。何に対して、どのような取引契約が締結されているのか、M&Aを進める場合予め整理をしておく必要があります。
売上高
売上高がどれくらいなのかは買い手にとって買収の意思決定の目安となります。買い手のニーズが売上規模の拡大である場合、自社で展開するよりも、買収した方が早いという判断になるためです。
2.事業の将来性
買い手にとって、事業内容とその将来性は最も興味のある部分です。
まず、事業内容については買い手と同業であるのか、近似の業種なのか、異業種なのかなどによって、買い手の検討の度合いは変わってきます。同業であればいいというわけではなく、強化していきたい分野など買い手側の買収目的にもよります。売り手企業のオーナーが良い買い手を見つけるためにも、自社の事業内容を正確に把握しておくことは重要です。取り扱いサービスや製品、キャッシュフロー、営業方法、仕入れ先、社員構成など、事業がどのようになっているかを押さえておきましょう。
事業の将来性については、最も重要とされる部分です。将来想定されるキャッシュフローが多いことをアピールできるか、つまり、説得力のある利益計画が必要です。単なる絵に描いた餅ですと、開示資料の信憑性を疑われることにもつながりかねないため、事業計画の作成には注意が必要です。
3.開示資料の整備
M&Aにおいては、情報に関して売り手側に優位性があります。そのギャップを埋めるべく、買い手候補が買収条件を提示する前に必ず調査(デューデリジェンス)を行います。開示資料の精査の際に、内容に不備が多く発見されたり、内容がきちんと整理されていなかったりすれば、買い手候補に疑心暗鬼が生じてしまい、買収提示価格が下がったり、案件が不成立になることもあります。
決算書類などの財務関連書類、規程類、契約書類などの開示資料の整備は当然重要です。一方で、長期間に渡る企業経営で何らかの問題が出てくる方がむしろ通常のことで、何もない会社は見たことがありません。こうした場合、隠そうとするよりも、むしろ早期段階できちんと説明する、開示する方が良い結果に結びつくことが多いものです。仮に、資料開示を行わず、M&A完了後に問題が発覚して買い手に損失が生じた場合、損害賠償の対象となる可能性があります。
デューデリジェンスの段階で、具体的にどの程度の内容を開示するかは、専門家であるアドバイザーの意見を参考にすべきです。というのも、その判断は実際に案件によって異なってくるためです。
おわりに
M&Aで売れる会社と売れない会社の差は、まさにこういったポイントを押さえてクリアしているかどうかで変わってきます。将来の譲渡の為に、今から対策を始めてみるというのも売れる会社にするための戦略の一つではないでしょうか。