スタートアップ出資の減税(優遇措置)について
オープンイノベーション促進税制の枠内
政府、与党は大企業が、非上場の設立10年未満の企業に1億円以上出資した場合、
・所得(≒税金上の総収入や総所得、売上額などと想定してください)
から25%相当を控除し、税の負担を軽くする、いわゆる軽減措置を設けることを発表しました。
投資者の対象としては、国内の事業会社とコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)による出資が対象となり、投資会社などによる出資は認めない方針だと言います。
対象となる期間については、新税制は
2020年4月~2022年3月末までの出資
に適用するとのことです。
さらに、投資対象が海外のスタートアップの場合は5億円以上の出資額を条件となります。
大企業ではなく、中小企業による税制優遇も設けることとなっており、中小企業による出資の場合は1千万円以上を対象とするとのことです。
ここで、本稿記載時点では、
中小企業は法人税法上であれば「中小法人等」と規定される部類になり、
・資本金(出資金)が1億円以下であれば中小法人等
となりますので、大企業であれば
・資本金1億円超
と捉えて頂ければと思います。
(ただし、資本金が5億円以上の大法人の100%子会社である場合などは除きます。また、租税特別措置法に該当する場合は、上記の1億円以下の要件に加えて、資本または出資を有しない法人のうち、従業員数が1,000人以下の法人あるいは個人事業主、同一の大規模法人(資本金1億円超など)から2分の1以上を出資されている法人、2社以上の大規模法人からあわせて3分の2以上を出資されている法人は除く、なども要件として加わります。)
まとめますと、この要件を満たした、大企業、中小企業らは、スタートアップ企業(この場合10年未満の会社との定義だと思います。)に対して、所得の25%相当控除が見込まれる、ということです。
この税制の枠組みですが、これまで政府が進めてきていた
・オープンイノベーション税制
の枠内で実施するとのことです。
(注)オープンイノベーション税制 リンクご参照ください
期待する効果と付帯条件
さらに、税制優遇を受けるための付帯条件には、
大企業が自社の人材や取引網とスタートアップが持つ技術やノウハウを組み合わせ、新分野に進出するなど事業構造を転換できる見通しがついていること
も出資後の所得の控除条件とするとのことですが、大企業のグループ会社への出資は対象外とする、とこれは当然のことかと思われます。
いわゆる事業会社におけるシナジー投資に限定する、ということが今回の法律案へ向けた背景にあると考えられます。
また、更に、保有期間要件も提示されているようです。
今回の保有期間要件とは、
・出資した大企業が出資から5年以内に株を手放したら、新税制の適用によって受けた税優遇分を国に返す措置も盛り込む
とのことです。
しかしながら、期間で縛ることが正しいのか、というとそうではない、と理解しています。
期間で縛ることで、かえって、「投資タイミング」と「投資の損切タイミング」という意味における、事業会社における
・選択と集中の機会を逸失する
ことにもなりかねないからです。
往々にして、選択と集中が必要となり、5年以内に手放すような事象が生じるということは、マクロ的に環境が大きく悪化した場合や、ミクロ的には事業環境が悪化、自社の戦略が失敗した等により、当該買収した会社を手放す必要性が生じる、という理由があるはずです。
この経済的な損失に加えて、税制で優遇されていた所得控除見合いの税金を一気に納める、というようなことになれば、買収側としても本制度に鼻白まざる得ないでしょう。
今後、スタートアップ企業への出資・投資の優遇につき、どうなっていくのか、変遷を見守っていきたいとおもいます。
まとめ
今回は、投資会社、純粋ベンチャーキャピタルといったいわゆるプライベートエクイティファンドには恩恵が無いように見えますが、今後税制がどのような枠になるのか、は本稿記載のとおり、
・シナジーとは何か
・国力増加につながるような大企業とスタートアップ企業との投資関係とは何か
・そられによりどれくらいの経済効果が見込まれるのか
とまだまだ検討すべき論点は多くあると思います。
時流に乗って、単純に、上記のようなスタートアップ企業への軽減税制に留まるようでは、あまり利用されずに終わっていくと筆者は考えます。