MBOのあるべき姿の提示~廣済堂MBOからの考察③~
企業価値の向上とは何か
前回は、廣済堂のMBO失敗の件をもとに2つある論点のうち、
「適正・妥当な株価(買い付け価格)」とは何なのか?
について考察してみました。
今回は2つ目の論点である
「企業価値の向上」とは何なのか?
について考察してみたいと思います。
廣済堂におけるプレスリリース
廣済堂は今回、ベインキャピタルによるMBOが失敗した後の4月25日に
株式会社南青山不動産による当社k部式に対する公開買付けに関する意見表明(中立)のお知らせ
というプレスリリースを発信しています。
その中で、重要なキーワードとなっているのが
・「企業価値」
です。
会社としてはあくまで中立を決め込むということは、
・南青山不動産による公開買付けに対しては中立の立場でいること
・株主が南青山不動産による公開買付けに応募するか否かは株主の判断に任せること
という2つを伝える内容となっています。
この中で、意見の根拠及び理由で、根拠には大きく4つあります。
1.南青山不動産による支配が企業価値向上をもたらすとの判断には至っていないこと
2.南青山不動産による支配が企業価値を毀損するおそれがあること(本文は、「おそれも否定できないこと」と回りくどい表現)
3.自分たちの経営プランの方が企業価値が向上でき、株主共同の利益の向上に資する可能性があること
4.南青山不動産による買付価格が、廣済堂側で妥当と判断した買付価格を上回っており半対する理由もないこと
が挙げられています。
ご覧頂きました通り、4つのうち3つは「企業価値」がキーワードであり、1つは昨日触れた「株価の妥当性」について触れています。
企業価値
企業の価値とは何を意味しているのでしょうか。
今回の廣済堂側としては、南青山不動産の支配が企業価値の向上が見込めない具体的な理由に
・シナジーが見込めない
・新規の借入が出来なくなる恐れ
・取引先が南青山不動産の支配になることについて否定的(安定的継続的取引ができない)
・社外取締役を増員し、コーポレートガバナンスの強化を図ることで独自経営を行う方がメリットがある
と言うことに触れています。
さて、企業価値ですが、簡単に言えば、
・企業が生み出すキャッシュフローの合計を現在価値で表した金額(価値)
と言えます。
企業が毎年生み出すキャッシュフローを将来的に永続することを前提に、計算していきます。
このときのキャッシュフローで使用されるものがFCF(フリーキャッシュフロー)などと呼ばれています。
つまり、FCFが大きくなる施策であれば、企業価値は向上する、と言えます。
企業価値につきまして詳しくは、BIZVALメディア
企業価値とは
で触れていますので、ぜひご一読ください。
今回の具体的な理由の4つはどれにおいても
・FCFが最大化する点について、廣済堂が南青山不動産の支配に入った場合と、ベインキャピタルによるMBOをした場合との比較がなされておらず、要はApple to Appleの対等の比較ができていない点が問題である
と筆者は認識します。
FCFを増大させるには、どのようにして具体的に売上を上げるのか、上がることが期待されるのか、または利益、利幅が上がる施策が期待できるのか、またはコスト低減・削減が行えるのか、と簡単に言えば、キャッシュが増えるための施策に言及する必要があります。
この点、企業価値をうたってはいるものの、まったくもって
・具体的ではない
・否定する根拠としても弱い
・自社の成長戦略も蓋然性が低いと言わざるを得ない(一部、リリースの中で廣済堂自身も認識しています)
ものであり、積極的に中立の立場をとりにいく、というよりも、むしろ
「八方ふさがりとなり、中立でだんまりを決め込まざるを得ない状況」
になってしまった、というのが今回の状況であると理解します。
このような中で、いくら企業価値、企業価値と連呼しても、残念ながら非常に薄いプレスリリース内容であることは、一覧すると良く分かると思います。
また、積極的に発信している中で、金融機関の新規の借入が出来なくなり、うんぬんとの記載が見られました。
これについては、
企業価値=株式価値+純有利子負債(有利子負債総額ー手元現預金)
とした場合に、有利子負債の金額の面から企業価値について触れていることが見え隠れしていますが、それ以前に語るべきである
・廣済堂としての最適な資本構成とは何なのか?
が議論、定義されていないことに違和感を覚えます。
当然、最適な資本構成で、
「企業価値が最大化されている状況である」
とは、学術的にも実務的にも、正解がない世界ですが(MM理論を批判するも、MM理論が正当ファイナンスの考え方である)、新規の借入がどの程度あることが適切なのか、の議論がないまま、あたかも借り入れが無ければ、成長できない、と見て取れる記述は、あまりにも、既存株主に対して情報提供不足である、と考えられます。
株主が判断するための材料として、どの程度の借入をする、借入余力を残しておくことが、倒産リスクなども踏まえ、企業価値の向上へ向けて最適であるのか、発信すべきでしょう。
このように、企業価値に対しての見解があまりにも薄く、南青山不動産やレノから指摘されている
・株主軽視
という姿勢は、筆者も同感であります。
企業価値の向上へ向けた具体策こそ、成長戦略の発信であり、その戦略に基づく、具体的な施策に触れてこそ、納得感が高い
・企業価値向上をもたらすMBOである
と言え、MBOの指針にも則ったものになるのではないかと考えます。
まとめ
さて、3回に渡り、廣済堂のMBOから、MBOに関連する論点について触れて参りました。
今後、MBOについては、実は、同じように中立表明をした例が過去にもあり、どのような背景があるのか、など適宜本メディアで触れて説明をしていきたいと思います。
3回に渡り、ご覧いただきましてありがとうございます。