スルガ銀行との提携~新生銀行とノジマの思惑②~
スルガ銀行への新生銀行の業務提携
前回の記事で、経営危機に陥っているスルガ銀行に対して、家電量販店のノジマが市場において株式を買い集めており、同時に業務提携も視野に入れ、リリースをした件に触れました。
今回は同時にスルガ銀行に対して業務提携を発表した「新生銀行」のその思惑について触れてみたいと思います。
新生銀行側のプレスリリース
まずはプレスリリースの内容について確認してみましょう。
スルガ銀行は、静岡県を本拠地とし、主に個人のお客さま向けに多様な金融サービスを提供する地域金融機関であり、現在、コンプライアンスの徹底およびガバナンス機能の強化を通じて、お客さま本位の業務運営の実現に向けて取り組んでいます。
当行は、スルガ銀行との間で、相互に自社の強みを強化・補完し合える可能性を持つビジネス・パートナーとなりうるという共通の認識に至ったことから、今般、基本合意書を締結し、今後の業務提携の可能性について、下記の項目に関して具体的な検討を開始することとしました。
(1) 無担保ローン分野、住宅ローン分野など、個人向けビジネスにおける連携
(2) 事業承継、その他の法人向けソリューションの提供など、法人取引分野における連携
(3) 資産の流動化等に関する連携
なお、当行は、今後スルガ銀行が、スルガ銀行のガバナンスへの参加も含めた第三者との資本提携を検討する可能性があると理解しております。当行とスルガ銀行は、当面は上記の業務提携を実効性あるものとするための具体的な協議・検討を優先して行うことを合意しましたが、このことは、当行として、スルガ銀行の意向を踏まえ、資本提携を含めたさまざまな将来の選択肢について検討を行う可能性を排除するものではありません。
(出所:新生銀行2019年5月15日付プレスリリース「スルガ銀行との業務提携に関する基本合意について 」より一部抜粋)
ノジマは業務の提携における施策を具体的に打ち出していましたが、新生銀行のリリースでは提携の施策レベルについての言及は、未だ「基本合意」の段階であるためか、抽象的な表現にとどまっております。
例えば、ですが、
(1) 無担保ローン分野、住宅ローン分野など、個人向けビジネスにおける連携
(2) 事業承継、その他の法人向けソリューションの提供など、法人取引分野における連携
(3) 資産の流動化等に関する連携
上記の取り組みをすることにつき、
「本当に相手がスルガ銀行が最良の選択肢であるのか」
についての言及がほとんど見当たりません。
これでは、どうして経営危機に陥りそうな金融機関であるスルガ銀行に
「あえて業務提携をする」
また提携だけではなく、将来の出資も検討を否定しない、ということを述べているのか、投資家やステークホルダーには非常に分かりにくいのではないでしょうか。
金融庁が望む救済
スルガ銀行は、前回触れましたが、不良債権(貸し出した金融債権のうち回収可能性がない、又は回収可能性が低いもの)はおよそ3兆円にもおよびます。
社会的なインフラとして静岡地場のみならず、リテール(個人向け)では優良な金融機関としてあまり知られていませんが、ビジネスモデルが優れた金融機関として、
・2003年ポーター賞
も受賞していました。
これは相当筋のよいビジネスモデルではないと受賞できない賞です。確かに、WEBサイトからは非常に秀逸な戦略ストーリーがあったことが見て取れます。
(参考:個人市場へ特化して大企業市場をトレードオフ 新しい切り口で独自性のある新商品・サービスを継続的に開発し、従来にない価値を顧客に提供)
おそらく、ですが、過去からの不正体質やハラスメント体質はあったのかもしれませんが、他方で優れたビジネスモデルであったことは確かかもしれません。
ビジネスモデルもすぐれ、金融庁からもある意味ベンチマークにせよ、と他行にも発信されるほどになりました。
これを嵩に懸け、「不正信用創造」に走ってしまったのが、かぼちゃの馬車の事件だと思われます。
こういったある意味、業界全体でスルガ銀行を
「優等生扱い」
してきたのは間違いはなく、そういった手前の事情も見え隠れしていそうです。
・社会的なインフラとして重要な機能であるスルガ銀行がなくなるインパクトの大きさ
・3兆円の不良債権が実質飛んでしまう経済への影響
・過去からの祀り上げてきた金融業界における金融庁を始めとする面子
このような背景もあいまって、救済は待ったなしで進められ、なおかつ、SBIグループなども手を挙げていたものの、結果として
・新生銀行が業務提携
まで行ったものと思われます。
安易な提携構想では?
一部の報道で目にした記事では
「経営破綻をした日本長期信用銀行から生まれ変わり優良な金融機関となった新生銀行は、まさにスルガ銀行のお手本ともなれるのではないか」
といった記事も目につきましたが、これでは安易に過ぎます。
新生銀行は、経営破綻し日本政府により一時国有化された日本長期信用銀行は、2000年(平成12年)3月アメリカの企業再生ファンド「リップルウッド」を中心とした投資組合「ニューLTCBパートナーズ」(New LTCB Partners CV)に10億円で売却された金融機関が前身です。
経営破綻させてから、国有化で税金を投入し、そこにファンドが乗り込み、安価な価額で譲渡された案件としても有名です。
更に、同時期に破綻した日本債券信用銀行(現 あおぞら銀行)や、破綻はしなかったものの多額の公的資金を投入されたりそなホールディングスなどは公的資金を返済の道筋を示してきたものの、新生銀行は示さないことなども取りざたされていました。
こうした意味合いから行けば、道筋をつけた「あおぞら」や「りそな」の方がより導く相手としては望ましいのですが、何せ、未だスルガ銀行側の不良債権額の大きさ、更なる隠れたる債務などの存在から、一時期白羽の矢が立った「りそな」でさえ、及び腰になった、という顛末です。
この点、新生銀行はある意味、都合が良い金融機関(断りにくさがある)ということなのかもしれません。
まとめ
いずれにしても、今回は、未だ資本業務提携には至っておらず、スルガ銀行の行く末はほとんどにおいて不透明です。
引当金の処理はした、というものの、社内におけるコンプライアンス問題など、課題山積であり、提携発表したものの、そうそう上手く事が運ばないものとみています。
また、過去に、新生銀行はあおぞら銀行との統合の話なども出ていましたが、結果的にうまくいきませんでした。
今回どうなるのか、は注視したいです。
本質的には、完全にどこかの傘下になり、抜本的な変革をしない限り、スルガ銀行の再生、は無しえないものと考えます。