MBOのあるべき姿の提示 ~廣済堂MBOからの考察②~
MBO その結果として
表題の件ですが、結果として元々廣済堂が企図していたベインキャピタルによるMBO(マネジメントバイアウト)は失敗に終わりました。
なお、ベインキャピタルによる買い付け価格は1月時点610円から2月末には700円まで引き上げていました。
前報しました通り、これは南青山不動産(今回の敵対的TOBを仕掛けた公開買い付け者)とレノ(旧村上ファンドによる関係が深い投資ファンドで廣済堂の既存株主でもある)が廣済堂の、ベインキャピタルによるMBOに異議を唱え、ベインキャピタル案に対抗したいわゆる敵対的買収を仕掛けた形になっていました。
結果としてこの敵対的行動がベインキャピタルによるMBO失敗の主な原因と言えます。
なお、南青山不動産は買い付け価格を750円として設定していました。
今回、中編と後編で触れておきたい論点は大きく2つあります。
1つ目は、「適正・妥当な株価(買い付け価格)」とは何なのか?
2つ目は、「企業価値の向上」とは何なのか?
です。
適正・妥当な株価とは何なのか?
今回のMBOでは、非常に興味深い点があります。
それは買い付け価格について、視点が3つも出た事です。
610円
700円
750円
です。
ここで、MBO時における株価の算定について補足しておきます。
通常、第三者が上場している企業に対して、「株式の公開買付(=TOB)」のように多数の投資家に影響がある行為を行う場合、広く市場に対して、公平性・妥当性を担保し、市場の透明性を図ることを目的に(意思決定過程における恣意性の排除)に、第三者からの株価算定の取得が推奨されています。
(出所)平成19年4月経済産業省「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針 」
(直近で改訂が予定されているとのことです。)
ここには、以下のように、透明性の確保を求めています。
(以下、原文引用)
MBO において提示されている価格に関し、対象会社において、独立した第三者評価機関からの算定書等を取得すること。
(算定方法の採用にあたっては、複数の算定方法を利用する等合理的な算定方法を採用し、恣意的な価格の算定等がなされないように配慮することが必要である。なお、当該算定書等は複数取得することがより望ましいとの指摘もある。ただし、取得する数自体が重要なのではなく、算定書等の作成過程から当該第三者評価機関と真摯に議論をする等して、有効に活用することが重要であるとの指摘もある。)
今回は、山田コンサルティンググループ(以下、山田コンサル)が株価算定を行い、参考としたとのことです。
ここで、会社側の意見としては、なんとベインキャピタルによるMBOの価額につき、
・1月の買い付け価格610円
についての算定において、山田コンサルの株価算定を用いた結果として以下のように判断していました。
「本公開買付価格は、当社の企業価値を適正に評価して設定されていると評価でき、本公開買付価格を含む本取引の取引条件の公正性・妥当性は十分に確保されていると思料する。 」
しかしながら、1か月後には、
・1月の買い付け価格700円
がやはり妥当である、と認識を改めています。
背景には、応募が芳しくないことがあったものと推察されますが、もしかすると、市場関係者等から今回の敵対的な動きが耳に入った結果、焦って買い付け価格を上げたとも見て取れます(当初買い付け価格の約15%増加 発行済み株式数に乗じると約20億円近くの株式価値)。
いったん応募価額を適正であると言いつつも、撤回し、再度の価額が適正であると1ヶ月以内に表明することは、果たして、既存株主、新規株主等の投資家として、
・妥当性・透明性があった
と言えるのでしょうか。
筆者としては、これはさすがに価額の算定のプロセスに一定の疑義を持ってしまい、更には、今般ベインキャピタルとのMBOがMBO指針にあるような
「企業価値の向上」
「公正な手続きを通じた株主利益への配慮」
を目的、かつ配慮したものになっていないのでは、と疑義を持ってしまいました。
まさに、南青山不動産とレノはこの点をつき
「株式会社廣済堂に対する公開買付けについて~日本の上場企業及びマネジメント・バイアウト(MBO)のあるべき姿について~」
で、同点を指摘しています。
これほど重大なプロセスが求められている中で、
「一度決めた株価算定を撤回することが、不透明さ・妥当性を欠く状況」
ということが、MBOの失敗という結果で示唆されたのではないでしょうか。
株価算定の重要性も、合わせて再認識された案件であったと思います。
(出所)「株式会社廣済堂に対する公開買付けについて~日本の上場企業及びマネジメント・バイアウト(MBO)のあるべき姿について~」
まとめ
今回は、廣済堂のMBO失敗の件で
論点は、
1つ目は、「適正・妥当な株価(買い付け価格)」とは何なのか?
2つ目は、「企業価値の向上」とは何なのか?
ですが、今回は1つ目をお話しました。
次回は、後編、最後として、2つ目に触れてみたいと思います。