スタートアップをめぐる投資環境とその背景
大企業のスタートアップ投資、最高の1300億円
スタートアップ企業を取り巻く市場環境が2018年に大きく進化したことが日本経済新聞にて記載がありましたのでご紹介します。
大企業がスタートアップ企業への投資を一段と増やしている。2018年に日本企業が自社のファンドなどを通じ投資した金額は1300億円超と、17年から9割以上増えたもよう。年2兆円規模の米国に比べ規模は小さいものの、事業環境が激しく変化するなか、自前主義にこだわらず外部の技術やアイデアを取り込み成長を模索する。
M&A(合併・買収)助言会社のレコフが日本企業のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)投資額を集計したところ、18年は12月26日時点で1338億円と過去最高だった17年通年実績(700億円)よりも91%増えた。
(以上、日本経済新聞「大企業のスタートアップ投資、最高の1300億円」2019年1月6日版紙面より一部抜粋)
スタートアップ企業の定義までは記載されていませんが、恐らく創業期間、売上規模、人員規模、事業内容のレベル感などが定義の軸になるのだと思います。
いずれにしても、国内の大企業におけるスタートアップ企業への投資が着実に増加しているとのことです。
どういった背景があるのでしょうか。
企業のイノベーション(革新)とディスラプション(破壊)
基本的に大手企業が、ベンチャー企業に求めるものの特徴に
イノベーション
ディスラプション
という2つのキーワードが挙げられます。
イノベーションは企業として、革新・変革を意味し、またディスラプションは、破壊を意味します。
実は、ここ数年の企業環境を取り巻く「マクロ環境」の変化が非常に激しく動いており、特にテクノロジーの進化、AIやブロックチェーン技術の発達と実用化、などにより、今後の先行きが見えない時代である、と大企業の中でも積極的な研究や開発投資が行われています。
しかし、大企業の中では、実際の製品のローンチに至るまで、複数の部署との折衝、予算枠の申請、承認、実行の承認、製品化後のプロモートなどに短期で終わらせることが非常に難しい組織体系になっていることが実情です。
社内政治、というような言葉や、官僚主義等という言葉に象徴されている通り、大企業は大企業で、
「現在直面している環境変化」
についていくための試行錯誤をしている状況なのです。
ここで、スタートアップは、リソース、特に資金面に関しては、ウィークポイントですが、スピード感、事業アイデアから製品化までの速度は、大企業にとって、今の段階では脅威ではないものの、企業内におけるイノベーションを促したい場合、または組織を大きく変えていきたい起爆剤を用いたい場合、スタートアップ企業の状況は喉から手が出るほど欲しい状況なのです。
大企業との付き合い方
とは言っても、大企業の思惑や、進め方は良く分からない、という方も多いのが事実です。
そこで、大企業がスタートアップ買収において3つのステップに分けて整理することが出来ますので、ご紹介します。
1.イノベーション・ディスラプションへのタッチポイント
上述のとおり、スタートアップ企業がやっていることに対して、試験的に興味関心がある状態のときです。
ここでスタートアップとしては、製品がプロトタイプでも良いので、完成している場合、この興味関心度合いは一気に高めていくことが出来ます。
組織化、組織的である必要は無く、ある意味、一点突破できる力が、第三者に可視化できれば十分でしょう。
2.共に汗をかく
このステップでは、大企業が1、で投資・出資をしたことに加え、より大企業内にけるリソースを利活用する、または追加出資をする、直接出資でなくとも、大企業の中において、新たな人財を登用するなどの動きを見せるステップです。
1.と比べると大分、本気度が増していることが見て取れます。
ココの段階に来ると、1.の投資先の中でも数社残るか否か、といったところでしょうか。
3.取り込み・買収
この段階は最終段階です。
スタートアップへの出資で終わらず、買収をしたい、つまり大企業のグループ傘下に入るということになります。
ここで創業オーナーの立ち位置がどうなるのか、は、イグジットの方針にもよりますし、買収時点の保有株式の譲渡割合にもよります。
以上のような3つの段階、ステップがある、と認識しておくことで、
「逆算思考」
として、イグジットとして、M&Aを狙う、バイアウトをするんだ、というところからスタートする場合には、それぞれのマイルストンで、創業者としての役割、自らのコミットメントを設定していくことが、近道になるでしょう。
(スタートアップ買収へ向けた3ステップ 弊社作成)
まとめ
スタートアップ買収の価値評価については、コーポレートベンチャーキャピタル、といういわゆる、事業会社が設立したベンチャー投資の会社が、上述の通り、
・自社へ取り込んで、何らかの相乗効果を狙う
ことを目的として買収するため、単純な金融投資家が背景にいる「ベンチャーキャピタル」からすると、価値評価、価格評価を押し上げているといった声もあるようです。
しかしながら、これまでのベンチャーキャピタルの評価が正解であったかというと、一概に正しかった、と言えないのが実情ではないでしょうか。
取引相手が、複数出ることによって、スタートアップ企業側にとっては、
「適正な競争環境のもと投資家を探せる」
といった観点で、今後もCVCの投資環境がより充実していくことを期待しています。