株式を対価としたM&A ~武田のシャイアー買収~
株式を対価としたM&A
本メディアでも何度か触れていますが、2018年7月9日に「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」の施行により、
・「株式を対価の一部」
として活用しても、簡単にお伝えしますと、一定の要件を満たすことで
・「課税が繰延される」
・「会社法の課題」
がクリアされることとなりました。
例えば、会社を買収する際に、100万円の株価の会社を、50万円は現金で、50万円は買収側の自己株式で、とした場合、売却側は、50万円の株式対価をもらい、そこに譲渡益が含まれていた場合、そこにすぐに課税されてしまう、ということが待ち受けていました。
仮にもともと1万円の会社であったが、100万円まで成長、株式でもらった50万円部分についても、49万円分課税されてしまうという、なんとも売却側にとっては、嬉しくないスキームでした。
(株式で保有し続けているのにも、関わらず、即座に課税されてしまうということをデメリットと感じる場合です)
これまでの株式を対価とした場合のM&A
会社法の中で、「株式を対価」としてM&Aを実施しようとすると、
1)株式交換
2)現物出資
のいずれかのスキームを選択せざるを得ませんでした。
しかし、
・株式交換は「100%完全子会社化」をする必要があり、かつ外国法人が対象の場合は使用不可能であること
・現物出資はは「検査役の調査」、「取締役の不足額填補責任」、「有利発行に対するリスク回避措置としての株主総会特別決議」など、非常に面倒くさい、かつ、ややこしい、制度の規制があること
などから、
・「株式を一部の対価」として会社を買収することは基本的には困難であった
のがこれまででした。
2018年7月9日に「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」で変わる世界
武田のシャイアー買収は、まさにこの法律を使い、実現させようとしています。
今回、武田は、非常に難しい借り入れの仕方によって3兆円近く調達をしており、残りの4兆円は、武田の株式を対価に、シャイアー株主に対して支払われます。
クロスボーダーでの巨額買収時代の幕開け、とも見て取れます。
日本はこれらの買収の歴史から見ると、非常に制度として後れを取っており、巨額のM&Aがしにくい状況であったことは、間違いありません。
ちなみに、世界の歴代のビッグディールのうち株式対価の案件は8件を占めています。
(No2、3、4、5、7,8、9、10の黄色箇所が該当)
まとめ
巨額の買収には、「のれん」が計上され、経営が上手くいかなくなった時点で、巨額の減損損失を計上する(RAIZAPグループのM&Aの失敗でも記載)ことを余儀なくされます。
それは株式対価であったとしても同様で逃れることはできません。
株式を一部対価として使いやすくなったことで、M&Aのスキームは選択肢が拡がりを見せましたが、買収戦略の基本は
「相互の企業価値の向上」
であることは何ら変わっていません。
M&Aの本質は何か、がスキームが広がったことによって、考える良い契機になると思います。
なお、今回の2018年7月9日に「産業競争力強化法等の一部を改正する法律」については、
平成30年4月「生産性向上特別措置法案産業競争力強化法等の一部を改正する法律案について」を参考にしております。