「株式の持ち合いとM&Aの失敗」~バロー・アークス・リテールから学ぶ~
中堅スーパー3社、資本・業務提携=バロー・アークス・リテールで連合
M&Aというにはほど遠い、少数株式、たったの2から6%の株式を持ち合う発表をした会社があります。どのような背景があるのでしょうか。
中堅食品スーパーのバローホールディングスとアークス、リテールパートナーズの3社は25日、資本・業務提携したと発表した。互いに株式を2〜6%程度ずつ持ち合い、店舗運営ノウハウの共有や資材の共同調達などを進める。
バローは東海・北陸、アークスは北海道・東北、リテールは中国・九州が地盤。人口減少や同業大手、他業態との競争激化に直面する中、日本を南北に縦断する地域スーパー連合を形成し、生き残りを図る。現時点で経営統合を検討していないが、今後、他社の合流やM&A(合併・買収)により、将来は合計売上高で3兆円規模の連合を目指す。
(以上太字箇所、2018/12/25-20:55 時事通信社 JIJI.comより抜粋)
驚いたのは持ち合う株式の割合です。
2から6%の株式の持ち合い、一体全体効果があるのでしょうか。
M&Aの失敗について
デロイトトーマツコンサルティングの調べによりますと、M&Aの「目標達成度」という視点から見た場合、目標の達成度が80%未満に感じている企業が、実に約7割にものぼっています。
原則として、M&Aの効果は、
「相乗効果(シナジー)」
を上げることであり、企業価値が買収前に比較して、買収後は上がっていなければ「成功」と定義することはできません。
直近では、日本郵政による豪トール・ホールディングスの買収など、国際物流分野の強化を狙った買収だったが、2015年の買収からわずか2年後の17年3月期に約4000億円の減損損失を計上するなど、大失敗に終わりました。
また、第一三共が印製薬大手ランバクシーを08年に買収したケースも、最終的に3000億円超の評価損を出し、海外でも同様に製薬業界が大きく動いていることは以前の記事でも触れましたが、
米製薬大手のファイザーは2000年から現在まで約60件程度の買収を相次いで実施、このうち、00年に実施した米ワーナー・ランバート買収(約11兆円)など製薬3社の買収総額は合計で20兆円を超えています。
しかしながらファイザーの売上高はこの20年間で約2倍に増えたが、時価総額は00年に付けた過去最大値(約35兆円)から現在は2割以上減っているという、事実上のM&Aでの失敗が見て取れます。
繰り返しますが
「企業価値が向上してなんぼ」
がM&Aなのです。
(出典:M&A経験企業にみるM&A実態調査(2013年)デロイトトーマツコンサルティング株式会社 より)
M&Aの失敗につながる5つの特徴
それではM&Aはなぜ失敗するのでしょうか。
表の通り、5つの特徴が挙げれます。
今回の「バロー・アークス・リテール」のケースで言うと、
4.取得割合が中途半端である
ということが該当すると思います。
では更に踏み込み、なぜ、中途半端な取得割合はM&Aの「失敗」に繋がるのでしょうか。
当たり前ですが、例えば今回のように2%など保有をしたとしても
「会社の支配力への影響がないから」
です。
通常、1つの目安となるのは
「議決権の3分の1以上の保有」
により、会社の
「株主総会の普通決議」
を執り行えることが支配の目安になります。
なお、普通決議では取締役の選任・解任・報酬の決定などが行えます。
例として、日産・ルノーで言えば、ルノーは日産の40%以上の議決権ベースでの株式を保有しており、支配下にある、と見て取れます。
ゴーン氏が大胆なリバイバルプランを実行し、日産をV字回復させることが出来たのも、こういった「支配力を持たせたM&Aであった」からだと言えます(現在の地検特捜部による取り調べなどゴーン氏の罪状などは別として)
また、議決権の「過半数以上」や、議決権の「3分の2以上」を1つの目安とすることも多いです。
これも、
「会社を支配する」
ための、株主総会の特別決議や、会社法ではなく、グループに取り込んだ際の「連結会計の形式基準」で「連結子会社」の対象になるなどの理由などにより、経営の支配が色濃くなることが要因です。
それにもかかわらず
「2-6%」
の株式の保有、などとなりますと、
「ほぼお互いが何もしないのと同じ」
であり、
精神的な安定以外は効用が無いと思われます。
(例えばお互いの地域への出店攻勢は避けましょう、など)
(「M&A失敗の5つの特徴」弊社作成)
まとめ
少数のしかも会社の支配に影響のある範囲におけるM&A以外は、成功からは程遠い結果が待っています。
今回は、「中堅スーパー3社、資本・業務提携=バロー・アークス・リテールで連合」を例に、M&Aの失敗の特徴
「取得割合が中途半端である」
に触れましたが、他の事例も非常に興味深いため、別の機会で触れてみたいと思います。
本稿ではあたかも「失敗したかのような記事内容」で記載してしまいましたことには大変恐縮ですので一言添えておきますと、当然、資本・業務提携=バロー・アークス・リテールで連合を発表したばかりです。
今後じっくりと時間をかけ、支配力のあるM&Aや、現状の中でもドラスティックな改革が進まないことはないと考えますので、最後の結びでは成功をお祈りしておきたいと思います。