製薬業界のM&A
にわかに製薬業界のM&Aが活発に
2018年も終わりにきて、製薬業界のM&Aが活発になっています。
1.武田薬品工業の、(アイルランド)シャイアー買収
2.製薬世界大手の英グラクソ・スミスクライン(GSK)と米ファイザーの一般用医薬品(大衆薬)事業統合(合弁会社を設立し、GSKが68%、ファイザーが32%出資)
3.大正製薬HDの米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)の仏子会社一般用医薬品を手掛けるUPSA買収
製薬業界といっても、業界の内容として大きくは、
・医療用医薬品
・一般用医薬品(OTC、大衆薬)
の2つに分かれます。
今回は、3.大正製薬の買収の案件が特徴的であったため、説明したいと思います。
大正製薬の野望
大正製薬と言えば、皆さんおなじみの「リポビタンD」や「パブロン」といったドラッグストアでよく見かける商品を世に広く販売しています。
これらの商品は、一般用医薬品と呼ばれています。
大正製薬の2018年売上高を見ると、
・セルフメディケーション事業 1,840億円(一般用医薬品に読み替えます)
・医薬事業 961億円(医療用医薬品に読み替えます)
・合計2,801億円
と、売上高の約70%が一般用医薬品によって構成されていることが分かります。
また、一般用医薬品事業については、海外売上高も伸ばしており、2017年から2018年にかけ、10%近く売上高を伸ばし、309億円を海外で稼ぐに至っています。
ここから示唆されることとして、大正製薬としては「一般用医薬品の分野に注力し、特に海外の売上高を伸ばしていく」といったことだと推察します。
そこにきて、まさに
「Bristol-Myers Squibb Companyが保有するフランスの医薬品製造販売会社UPSA社の子会社化及び関連事業資産の取得に関するお知らせ」に至ったものと理解しました。
なぜ一般用医薬品なのか
通常、医療用医薬品の方が、一般用医薬品よりも高収益であり、世界的な製薬業界のM&Aでも、お荷物の一般用医薬品を手放す傾向があります。
武田薬品工業は、特に医療用医薬品の分野(特にパイプライン 研究開発)をおさえに行く形で、シャイアーを買収しましたし、GSKとファイザーが大衆薬用の分野で新会社を設立するのも、何かしら今後の譲渡などの動きも視野に入れているのではないか、と感じています。
さて、くだんの大正製薬ですが、驚いたことに、一般用医薬品の方がはるかに高収益なのです。
2018年ベースで
一般用医薬品 営業利益率 16.4%
医療用医薬品 営業利益率 8.5%
と逆に、一般用医薬品で2倍近い利益となっているのです。
筆者としては、ここから読み取るに「リポビタンD」が稼ぎ頭になり、収益力が高い商品であることが推察されます。
(リポビタンDシリーズの売上高は547億円となっています。)
今回の報道では、下記のような発表がなされており、同社の今後の注力分野と一般用医薬品分野での野望が垣間見えます。
セルフメディケーション事業における海外部門の強化を掲げており、これまで人口増加及び経済発展により市場の成長が見込まれるアジア地域を中心に事業展開を図ってまいりました。
OTC 医薬品については、2009 年に本件取引と同じ相手先である BMS 社から PT Bristol-MyersSquibb Indonesia Tbk(現在は、大正製薬インドネシアに改称)及びアジア地域における OTC医薬品の商標権等のブランド資産を買収して以来、これを契機としてインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、メキシコ等で事業を展開・強化しております。
今後、高齢化やセルフメディケーションに関する意識の高まりを背景とした成長が期待される地域にも事業を拡げていく方針であり、この度、約 80 年間に及ぶ伝統と歴史によって築き上げられた解熱・鎮痛・消炎薬である Dafalgan 及び Efferalgan、総合感冒薬である Fervex 等のトップブランド製品を有する UPSA 社の買収により、フランスを中心に東欧を含む欧州諸国における強固な事業基盤を獲得いたします。
今回の買収によって、欧州の橋頭保を築き、その実は「リポビタンDシリーズ」が海外でも展開されていく、そのような戦略ではないのでしょうか。
まとめ
最後に日経新聞の以下の記事を抜粋したいと思います。
BMSは医療用医薬品に世界的な事業再編を進めており、今年6月にUPSAに対して売却を含めた再編を検討していると発表。18年中に方針を決定していると発表していた。UPSAの売却については10月に米メディアが1回目の入札が不調に終わったことを報道。12月に入り複数の仏メディアが、買収交渉にファンドのほか日本の大正HDという会社が参加していることを報じていた。
(日本経済新聞 「大正製薬HD、仏大衆薬を買収 1800億円で」2018/12/19 18:21記事より一部抜粋)
この記事を見て、大正製薬が本件買収で得た副産物があるな、と推察しました。
それは
「JAPANのTAISHOにもっていけば一般用医薬品の分野を買収してくれるぞ!!」
と海外の医薬業界で、一般用医薬品をお荷物に考えている会社が、コンタクトを求めていくことが高まったのではないかと考えます。
配当政策で使用する用語ですが、
「シグナリング効果」
のように、本件買収は、大正製薬にとっては、美味しい案件であった、と考えることが妥当と捉えています。