M&Aによる事業承継②
M&Aの活用による事業承継
前回はどのような会社はM&Aによる事業承継に不向きか、というどちらかと言えば、ネガティブな視点での寄稿となりました。
2回目の今回は、M&Aの活用によって、どのような事業承継の型があるのか、その型における留意点は何か、についてM&Aの手法(以下、「スキーム」)と共にお話したいと思います。
事業承継の型 ~株式譲渡~
【株式譲渡によりオーナーシップメントを切り替える】
日本国内の企業数は2018年版中小企業白書によれば、おおよそ382万社(非1次産業の累計であり、大企業、中小企業、個人事業主を含む。)ほど存在していることが分かります。
このうち、上場企業数は、3,640社(出所:日本取引所グループ WEBサイト「上場会社数・上場株式数」のページより引用)であり、約0.1%に満たない数しか上場企業は存在しておらず、
「99.9%が非上場企業である」
ことが分かります。
この99.9%の非上場企業は多くは、創業者、創業者から承継された一族などから成り立っていると言われています。
株主と社長とが一致していれば、いわゆる「所有と経営が一致」している状態で、これを
「オーナー社長」
と定義したいと思います。
また、オーナーが100%株式を保有している場合を想定します。
オーナー社長が事業承継に悩まれた場合、まずは一般的に取られる手法が
「株式譲渡」
となります。
読んで字のごとく、オーナーが保有している株式を、他の企業に買ってもらう(譲渡する)、行為です。
この場合、買い手は、法人が想定されますが、個人同士で売買する、つまりオーナー(自然人)が変わるということでも、当然M&Aにおける株式譲渡に該当します。
ただし、通常は、自然人の資力は限られているので、世間で良く話題になるようなM&Aの事例としては、やはり法人がオーナーから株式を譲り受けることが多く見受けられます。
ここで、オーナーが持っていた株式100%を、買収会社が譲り受けることで、買収会社の100%子会社となります。
事業承継では、株式譲渡は、1つの会社の所有者である自然人のオーナー株主が保有する「株式」を、他の会社に譲り渡し、「譲渡対価」を得ること、となります。
株価と税金
ここで重要になってくるのが、
「いったいぜんたい、株価はいくらなんだ?」
ということです。
弊社のサイトでは、どのようなステージの会社様も簡易的に株式価値診断ができる
「1分で分かる!企業価値診断」
を提供していますので、すぐに貴社の株価を把握頂けます。
是非、ご確認ください。
さて、譲渡対価ですが、通常は
「金銭」
をもらうことがほとんどだと思います。
この際に、仮に、一番初めに出資した際に10,000,000円で出資した会社が、100,000,000円で譲渡出来た場合、
「株式譲渡益」
に課税されることに留意して頂きたいです。
ここで、株式譲渡益について、国税庁のタックスアンサーを引用し、譲渡益課税の計算式と、課税割合を見てみたいと思います。
以下は、一般株式(簡単に申し上げますと上場会社以外の株式)を前提にします。
(計算式)
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=一般株式等に係る譲渡所得等の金額
(課税割合)
20%(所得税15%、住民税5%)
取得費は、ここでは簡単に、出資が1度きりでしたら、先ほどの10,000,000円となります。
また、100,000,000円が「適正時価」であることが重要ですが、適正時価ではなく、低廉譲渡(適正時価よりも安価に譲渡)となった場合、みなし譲渡課税の対象となり、適正時価での課税を課されることがありますので、
譲渡価額が、
「法人税法評価額」
であることをしっかりと確認してください。
(詳しくは、「法人税基本通達9-1-14 上場有価証券等以外の株式の価額の特例」を参照にしつつ、顧問税理士の方などにご相談ください。)
適正時価であったとして、
(100,000,000円ー10,000,000円)×20%=18,000,000円
が税額となります。
1億円、での譲渡価額でしたが、結構な金額を税額として取られてしまいますね。
手取り金額が「82,000,000円」となります。
また、非常にテクニカルなお話ですが、単純に類似業種比準価額と1株当たり純資産価額の併用割合を調整して終わり!ではなく、類似業種比準価額の計算で最後に乗ずる斟酌率も会社規模によって異なる点、「適正時価の把握」は細心の注意を払うべきと考えられます。
まとめ
株式譲渡は一見、非常に簡易的に実施可能なように見えますが、スキームとして厄介なのはやはり
「いったいぜんたい会社の株価はいくらなのか」
と
「その株価は適正なものと言えるのか」
と言った点です。
アドバイザーの多くは、税法的な助言をアグレッシブにすることはありませんが(税理士業法違反に該当してしまうため、ある意味当然ではあります。)、最低限、タックスアンサーをひも解くことや、「法人税法評価額」がどういった計算を行うのか、についての見識が求められるところです。
単純に、
「高く譲渡出来て良かったですね」
で終わるようでは、真に信頼たり得るアドバイザーとは言えない点も、留意が必要でしょう(もちろん高く売れるに越したことはありませんが、しっかりと税務の観点の指摘まで欲しいところですよね)。
弊社の株価算定
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はあくまでも、目安ですので、適正価格の算出ではない点ご留意頂きたいですが、まずはいったんの目安を把握なさることこそ、M&Aの一歩である、ということは変わりありません。
自社の今後をご検討になる際に、是非ご活用ください。