バイヤーズバリューとは?シナジー効果でより高い企業価値を創出
近年、M&Aが企業成長の手段として一般化してきました。ベンチャー企業へのM&Aも多く見られます。M&A業界では、日常では使用しない言葉も頻繁に使われることから、M&A用語を苦手とする方も多いと思います。そこで、M&A用語をできるだけ分かりやすく解説いたします。今回は、M&A用語の中から、バイヤーズバリュー(買収側・買い手側におけるM&Aによって見いだされる価値)について説明します。
バイヤーズバリューとは、買収後のシナジー効果を反映させた価値
M&Aは、買い手企業が売り手企業の価値を評価して、価格が決まります。買い手企業が価格を決定するにあたり、買い手企業にとって価格以上の効果があると考えれば、M&Aが成立しやすくなります。
バイヤーズバリューとは、売り手企業を買収することで期待できるシナジー効果を織り込んだ売り手側企業の企業価値と、売り手側の企業が単独で存在した場合における企業価値(スタンド・アローン・バリュー)との差分を指します。
通常、バイヤーズバリューは、売り手企業の事業計画と買い手企業がビジネス環境や事業の将来性を分析した価値(スタンド・アローン・バリュー)に対して、M&A後に想定されるシナジー効果を加味して算出されます。
例えば、売り手企業が単独であった場合の企業価値が1億円だとします。M&Aにより、買い手企業の事業と統合されることで、シナジー効果が生まれ3億円の企業価値の会社になることが予想されるとします。このような場合、バイヤーズバリューは2億円相当であると評価します。
バイヤーズバリューを加算した売り手側の企業価値合計、この事例で言えば3億円、よりも低い価格が売り手企業から提示されれば、買い手企業は割安と考えM&Aが成立しやすくなります。他方、3億円よりも高い価格が提示されれば、割高になり買収のメリットは無くなるため、M&Aが成立しなくなるケースもあります。
ただし、一概に、割高、割安、と言い切れない点もありますし、バイヤーズバリューの源泉としては、そもそもの対象となる売却側の売り手企業が存在していること、などがあるため、バイヤーズバリューの内容について、より詳細に見ていくことが必要と考えられます。
シナジー効果の評価には、売り手・買い手の双方による話し合いが必要
売り手企業の資産や資本から価格を設定するだけであれば、財務諸表など客観的に見える資料に基づき算出するだけなので、納得しやすくなります。価格に対する評価が分かれることも少なくなります。
これにつき、シナジー効果は、売り手・買い手それぞれの企業で別々の見方があります。
売り手企業側の視点であれば、高い譲渡価格でM&Aを成約させたいため、できるだけ買い手企業の事業とシナジー効果が発揮しやすい旨を説明するでしょう。
買い手企業側からすると、売り手企業のどの事業が自社のどの部分と組み合わさってシナジーが起こり得るのか、できるだけ正確に見極める必要があります。
確かに、双方の思惑や、一時的な譲渡価額という論点は重要かつ避け得ないテーマではあります。
ただし、本質的にM&Aを実施するか否かは、シナジーをどう見るか、どう図るか、実現できるか、により企業価値として、自社だけで達成することが限界にきている、逆に、ともに歩むことにより、描いているシナリオが実現できる、より高い企業価値を創出していくことができるか、という企業価値の最大化へ向けた行為になるか否かが、M&Aの成否の本質的な論点であると考えられます。
決して、割安だから、割高だからやらない、といった単純なことではない点、留意が必要です。
シナジー効果については、組み合わせや着目する観点によって異なってくるため、確立された算出方法がありません。そのため、どれだけのシナジー効果があるのかは、最終的には売り手・買い手の双方の企業で話し合いを行う中で、折り合いを決めていきます。
双方が話し合いを行う上で重要なことは、財務諸表などの公開されている資料だけでなく、機密事項などの外部には出さないような情報も出せるかどうかです。売り手・買い手の企業間で情報が隠されたまま交渉が進められると、シナジー効果を算出しにくくなってしまいます。M&Aを円滑に進めるためには、できるだけ隠し事なく交渉を行うことが重要となります。
また、最終的な双方の合意については、譲渡の契約書の中に、どういったことを前提とするのか、などM&Aの実行(クロージング)における前提条件や、買収後の一定の業績を共に獲得することを約するような契約形態など、価値やシナジーの発現へ向けて、様々な実現方法が存在します。
このように、一概に価値を決め売ってしまうのではなく、「どのような形態で譲渡をしていくことが、双方の価値が最大化されていくのか」ということをより重視していくべきと考えられます。
シナジー効果を評価してもらうための対策とは?
情報の優位性は売り手企業に
ベンチャー企業など未上場企業へのM&Aの場合、財務諸表などの経営に関する資料が公開されていないことから、買い手企業側は経営状況に関する情報を入手することが難しいといった現状があります(情報の非対称性が非常に高い)。
また、ベンチャー企業が取り組む事業は、先進的な技術やサービスに取り組むことから、市場自体が未発達な新興市場であることが多く、確立された市場と比べて事業自体の将来性を評価しにくくなっています。
このように、未上場企業における経営状況や事業の将来性などが把握しにくいことから、買い手企業側はシナジー効果を簡単に算出することはできません。
そのため、シナジー効果を評価するためには、売り手であるベンチャー企業側の経営陣から提供される情報に頼ることになります。買い手企業側でも業界情報を集めることはありますが、売り手であるベンチャー企業の方が情報量としては優位です。売り手側にとって、このような状況は自社の価値を高く評価してもらい、M&Aを成功に導くチャンスと言えます。
売り手企業によるプレゼンテーション力が鍵
売り手であるベンチャー企業の経営陣は、M&Aを成功に導くため、事業や市場の将来性を分かりやすく、具体的に提示できるようにしておかなければいけません。市場自体が今後どれだけ成長するのか、社会にどれだけ浸透する可能性があるのかをできるだけ分かりやすく伝えられるようにします。
そして、売り手企業の経営状況についても、明確に把握できるよう財務諸表だけでなく、中長期の経営計画等をしっかりと作成しておく必要があります。資料の準備だけではなく、きちんと経営を語れる人材が必要です。
このように、売り手企業が取り組む事業の将来性や経営状況について、適正な人物と資料を用いて明確に伝えることが出来れば、買い手企業側がシナジー効果をイメージし、算出しやすくなります。
さらに、売り手企業単体で経営した場合だけでなく、買い手企業の顧客や設備等を活用したときのシナリオを準備できると、より買い手企業にとって買収後の将来像を描きやすくなることでしょう。
まとめ
今回は、バイヤーズバリューについて説明しました。バイヤーズバリューは、シナジー効果を加味した買い手企業における売り手側の企業価値と売り手側の単独での企業価値との差分(バイヤーズバリュー=買収側が見込む売り手側企業の企業価値-売り手側企業単独での企業価値)のことです。
M&Aは、買い手企業にとって買収後の効果が大きくなると予想できなければ成立することはありません。このシナジー効果を発揮できるとイメージしやすくなるよう、売り手企業からもしっかりと情報を提供する必要があるのです。