《第1回》M&A実務最前線 ~売り手側としての「株式価値とは何か」を考える~
株式価値という言葉への馴染みの無さ
突然だが、株式価値または企業価値とは何か、説明を出来る方はいらっしゃるだろうか?
簡単に言えば、「会社の値段」と言えます。今回はこの会社の値段について、触れてみたいと思います。
非上場会社の株式の価値
日本国内における多くの企業は非上場企業と言うこともあり、実は自分の会社の株式の価値が幾らなのか?と言うことについては、あまり興味関心を持たれず、当然なのだが本業の企業経営に尽力し、株式価値と言う観点からは放置されてしまっていることも多く見受けられます。
実は非上場会社の株式は、買い手がいない中では「いくらです」と明言できる値段は存在していません。厳密にいえば、非上場会社の株式は取引価格が無いため、一般的にこの価格である、という基準がありません。
したがって、非上場会社の株式は、基本的には、買いたい意向がある人物、若しくは企業が現れ、売り主たる会社のオーナー(この場合は一つの会社に一人の株主のみが存在することを前提に話を進めます)が、買いたいとした価格で良いとなった場合、すなわち合意できれば、価格は1円でも1兆円でも基本は構わないと言えます(税務上の観点も、ここでは無視をします)。
株式価値算定の現場
簡単にかつ乱暴に言えば、何だって良いのであれば以下のような考え方があります。
・上場会社の類似する会社を選択し、取引されている企業価値を参考にする
・純資産や資本金額
・現在出ている営業利益やキャッシュフロー(フリー・キャッシュ・フロー)などを基に、将来性を加味して価値算定する
・自分が経営し続け役員報酬を残りあと何年とり、退職金を勘案した場合、総額いくらになるか。それを超える株式譲渡価額
後の項目ほど客観性が欠けていくが、前半の項目にしても何らかの係数を掛けたり、選択する会社によっては価値が変化するので、客観性というものは自社で考えている以上は、ない、と言えます。
専門的な知識がない中で、「適当に」決めてしまうとそれぞれの価値算定のアプローチの良し悪しが分からない中で、妥当性や客観性を欠いてしまうことになりがちです。
しかしながら現実には、このような選択肢の中で「適当に」価格が決まっていくことが多いのも実情です。
自社の株価へのリテラシーの低さ
更には、一定の価値算定の方法さえとらずに、ある日突然M&Aの話が舞い込む又は後継者問題の解決策として買い手候補を見つけ始めた売り手側として、以下のような発言をしばしば耳にしてきました。
「とにかく売れれば良い(特に窮境に陥っている会社)」
「言い値よりも交渉で少しでも高ければ」
「まあ、タイミングが来たらでよいか」
このように株式価値になると、何故か基準が曖昧になりがち、または見解が甘くなりがちですが、これはひとえに、当然企業が継続していくことを前提に、オーナーが事業を営んでこられたから、というある意味健全に運営してきた証でもあります。
オーナーが自分の会社の価値はいくらか、に固執し続けているのであれば、それはある意味、事業運営ではなく、投機や投資となってしまうからです。
株式価値を考えるシーン
これまでの話で見てきた通り、非上場会社の株式価値ということを考える、というのは「特殊な状況」に直面している場合でもあると言えます。
「特殊な状況」の中には、
・オーナーがご高齢であるが、自社の後継者がいらっしゃらない
・金融機関からの借入返済ができないような状況になっている
・自社のみでの成長に限界を感じ、パートナーを探す
・自社の自力の成長では限界があり、買収先を探し、自社ではなく、買収する会社を探している
などが挙げられます。
前の項目では、事業の継続をしない判断になるでしょうし、後の項目では、どちらかと言うと今後も存続していくフェーズとなるでしょう。
前の項目は、特殊かつ一時的な事象であるため、ますます株式価値を考えるにあたっては「急な話」になってしまうのも無理ない話です。
次回は株式価値算定(企業価値算定)について、実務の現場を踏まえ考察していきます。