スタートアップ企業のファイナンス事情②
【2023年1月更新】 前回に引き続き、「スタートアップ企業のファイナンス事情」についておまとめしています。
それでは早速ご紹介してまいります。
スタートアップの資金調達 敷金・保証金の流動化
スタートアップ企業における資金調達後の資金使途で多いのが、“人員増とそれに対処するためのオフィスの移転”です。
上場時の公募増資の資金使途でも比較的よく出てくるものです。
そして、移転するときに必要になるものが「敷金・保証金」です。
法人の場合は6か月~12カ月分の敷金・保証金が発生することが多く、仮に賃料が1,000万円のオフィスを賃借しようとした場合、最大で1億2,000万円もかかってしまいます。
仮に10億円の資金調達をしたとして、これだけの敷金を収めるとなると調達総額の10%が固定化されてしまうことになり、他の投資に支障が生じるほどの影響があります。
しかし実は、敷金・保証金は差し入れたものであれば流動化することができますし、これから新規で契約をする場合においては自社で入れずに済む方法があります。
流動化とは“敷金・保証金を自社からは支払わずに済み、前述のような資金の固定化は生じない”ということです。
自社からは敷金・保証金をオーナーに収める必要がない代わりに、リース会社などが立て替えて(代預託と言います)オフィスオーナーに収めるため、月々の手数料(保証料)はかかってきますが、一時に差し入れる金額負担を考えると明らかに金融効果は高いものと言えます。
敷金・保証金で現金化または現金拠出が無かった分を
■投資に回す
■定期預金を組むことで金融機関からの借入がし易くなる(与信が高くなる)
といった効果を得ることも可能です。
また、賃貸借契約は新規と既存で以下のような違いがあります。
1.新規賃貸借契約
予め代預託を行い、代預託会社(リース会社等)に保証料を支払うことで、敷金・保証金が最初から発生することはなく、財務諸表上も完全にオフバランスとなります。
2.既存賃貸借契約
基本的には同じような取り組みになりますが、既存の場合、オフィスオーナー(賃貸人)との交渉が難航するなど、当初から取り組んだ場合よりも難易度が高いものとなります。
【この記事に関する詳しい解説記事はこちらです】
スタートアップ出資の減税(優遇措置)について
政府、与党は大企業が、非上場の設立10年未満の企業に1億円以上出資した場合、所得から25%を控除し、税の負担を軽くする“オープンイノベーション促進税制”を2020年度に新設しました。
国内の事業会社とコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)による出資が対象で、適用期限は2022年3月末までです。
また、中小企業による出資の場合は1千万円以上を対象としており、投資対象が海外のスタートアップの場合は5億円以上の出資額が条件となります。
大企業が自社の人材や取引網とスタートアップが持つ技術やノウハウを組み合わせ、新分野に進出するなど“事業構造を転換できる見通しがついていることも出資後の所得の控除条件とし、大企業のグループ会社への出資は対象外とするとされています。
加えて、保有期間要件も提示されており、“出資した大企業が出資から5年以内に株を手放したら、新税制の適用によって受けた税優遇分を国に返す措置も盛り込む”とのことです。
5年以内に手放すような事象が生じるということは、環境が大きく悪化した場合や、事業環境が悪化・自社の戦略が失敗した等により、当該買収した会社を手放す必要性が生じるという理由があるはずです。
この経済的な損失に加えて、税制で優遇されていた所得控除見合いの税金を一気に納めるということになれば、買収側としても本制度に気後れせざるを得ないでしょう。
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次回予告
次回のまとめ記事は 「企業価値」について考える① をお届けします。
お楽しみに。
―次回更新予定:6月28日(月曜日)