カーブアウトの考察 ~全体観①~
【2023年1月更新】 【カーブアウト戦略】
昨今、M&Aが増加する中で、経営者、担当役員、担当者が「仲介をする会社」の言われるがままに、前提とするストラクチャーを受け入れ、主に株式譲渡のみで売却または譲り受けるケースが見られます。
買収実行者、またはグループ会社の再編を検討している実行者としては、ストラクチャーを知ることこそが、PMIの成否、株価への影響があることを十分に理解したうえで、
「本当にそのストラクチャーでよいのか?」
を再度検討できるよう、理論武装をし、かつ本当の成功に向けたM&Aの道筋をつけるべきだと筆者は考えています。
その中で、今回は
カーブアウト戦略
について説明していきます。
【カーブアウトの本質】
カーブアウトは企業の多角化により株価が割安になる現象、いわゆるコングロマリットディスカウントの解消に向けて採られることが本質です。
また、コアとなる事業を譲渡することにより、資金を調達し、金融債務の返済、リバイバルプランの足掛かりとすることにも有用なストラクチャーと言えます。
それぞれの性質をまとめると下表のようになります。
【カーブアウトの特徴】
カーブアウトでキャッシュインされる手法には、想定されるもので、
・株式譲渡
・事業譲渡
・会社分割
の3つの手法が考えられます。
カーブアウトの特徴としては、逆にストラクチャーには株式交換・移転や第三者割当増資、合併もあるのですが、これらを含まないことから考えてみましょう。
カーブアウトは名称の通り、
「切り出すこと」
にあるため、グループ化に資するものや、増資のように単純に資金調達をすることは含まないとご理解ください。
なお、株主に株式が割り当てられる株式交換や合併もスキームとして考えられますが、今回は、現金によるキャッシュインを想定したカーブアウトとご理解ください。
それぞれの特徴は、大きく異なるため、なぜその手法を活用するのか、ということについて、考える必要があります。
【株式譲渡と事業の譲渡】
株式譲渡と、事業の譲渡(ここでは事業譲渡と会社分割(吸収分割))の2つに大きく分かれることを理解しておきましょう。
株式譲渡は、文字通り、親会社が子会社の株式をグループ外の第三者に譲渡すること、となります。
事業の譲渡は、対象となる会社の中で、事業部門や、セグメントが複数存在しているような場合で、そのうちの不採算部門や、ノンコア(非中核事業)を譲渡すること、となります。
両者の大きな違いを抑えておくには、
誰にお金が入るのか
ということを抑えておくことが一番です。
ここで、株式譲渡であれば、
子会社の株主である親会社にキャッシュイン
されますし、他方、事業の譲渡であれば、
対象会社が主体となり、その会社の事業を切り売りするわけですので、対象会社自体にキャッシュイン
されることになります。
【事業の譲渡】
事業の譲渡は、事業譲渡と会社分割に区分して理解します。
このうち、会社分割でも、新設分割と吸収分割というストラクチャーがありますが、今回は特に、後者のストラクチャーの吸収分割のみをさすようにします。
新設分割も考えられますが、新設分割+株式譲渡というストラクチャーについてもカーブアウトの対象となりますが、事業譲渡と比較するには、吸収分割が一番わかりやすいため、今回は、説明から除外しておきます。
事業譲渡では、事業の一部または全部を譲渡すること、と定義され、有機的一体として機能する事業を第三者に渡す行為となり、
・取引法上の行為
に該当します。
吸収分割は、一定の事業や資産・負債を第三者に包括的に承継させることが可能であり、事業譲渡と異なり
・組織法(団体法)上の行為
となります。
取引と組織の行為が法的に異なる点では、一番は税務の観点ではないでしょうか。
例えば、
・事業譲渡では建物の譲渡やその他資産の譲渡に対して「消費税がかかる」という点
・吸収分割では、資産の承継に対して「消費税がかかる」ということがない点
は大きな違いと言えます。
消費税は、買収者側の論点として抑えられるかも当然ですが、売却側・カーブアウトする側にとっても、買収されやすくする工夫として、有形固定資産である建物等の課税対象となる金額次第では、
10%の消費税が多額の税額になることも想定
され、事業譲渡を選択するということがストラクチャー上は不利となることがあります。
他方、会社分割(吸収分割)では、手続き面で、債権者保護手続きを要し、
分割完了まで簡単に言えば時間がかかる(債権者に1ヶ月以上の異議申立期間)がかかるほか、手続きが煩雑
です(書面の事前・事後の備置、労働承継法への対応等、対応が広範囲にわたります。)。
これに対して事業譲渡の手続きには債権者保護手続きが取られないため、比較的簡単に実行可能と言えます。
なお、明らかに会社の債権者(自身は債務者、すなわち会社にとって銀行などの金融機関)を害することとなる、それを知りつつ事業譲渡を行った場合、
・会社法23条の2の債務履行請求
を債権者が行使し、事業譲渡の転得者(譲受人)に対して債務の履行を請求することができますので、実務的には同意や、事前通知、協議が必要でしょう。
もっとも金融機関との[「金銭消費貸借契約」の中に、事業譲渡、その他の組織法上の行為が行われる場合について何らかの言及がされていること(いわゆるチェンジオブコントロール(COC)条項の存在)が多いかと思いますので確認をしてみましょう。
【まとめ】
今回は、カーブアウトの全体観について記載しました。
ストラクチャーも実は組み合わせて、最適なストラクチャーとすることも可能ですし、単純な株式譲渡では解決しにくい問題が他のストラクチャーを採ることによって、解消可能にもなることを、抑えておいていただければと思います。
次回は、事業の譲渡「会社分割」と「事業譲渡」について、カーブアウトで使う場合の使い分けを説明します。