不況時(コロナ禍)におけるM&Aの捉え方
何を達成すべきか?
新型コロナウィルスは、資本経済において「Withコロナ」か「Afterコロナ」かといった視点で、今後のマクロ環境、ミクロ環境にそれぞれどのような影響を与えていくのか、といった形で議論されることが多くなってきた感触を持っています。
ここにおいて、弊社が今後取り組むべきターンアラウンド、カーブアウトといった不況時におけるストラクチャー(取り組み施策)のレベルで語る前に、当たり前の話で、そもそも、現況下、我々は、企業は
・何を達成すべきか
を改めて考える岐路にいるのだ、と思います。
今回は個別論点の前の全体像のお話をしたいと思います。
目標、戦略、取り組み施策とKGI
まずは図を見て頂きたいと思います。
平常時と非常時(コロナ禍)における企業活動のあるべき姿は大きく異なります。そのため異なるがゆえに、戦略、取り組み施策、設計・設定すべきKGIも変える必要があります。
特に、このキリで分けると、
・平常時=上場企業目線≒上場を企図するスタートアップ企業=買収・譲受側企業
・緊急時=非上場企業(オーナー経営者)=売却・譲渡側企業
の分類で整理することも可能であり、自らの企業がどの立ち位置にいるのか、平常とコロナ禍における環境分岐のみならず、M&Aを用いる際に、自社がどのようなポジショニングにいるのか、イグジット戦略を描いているのか、またM&Aの主体として、買収側なのか、売却側なのか、といった視点の整理にも同時に有効な表区分となっています。
特に、今後、3回に分けて、緊急時(コロナ禍)におけるM&A戦略と具体的な打ち手、手続きまで触れて行こうと考えており、いったん、全体の整理としてお使い頂ければと思います。
コロナ禍(緊急時)におけるM&A戦略
平常時のM&A戦略で達成すべきTSR(株主総利回り)とは?
TSRについては、金融庁からの企業情報開示ルールが2019年3月期決算の有価証券報告書から
・「直近5年分の株主総利回り」
の記載を求められるようになったことで、一躍その名称が知られるところになりました。
コーポレートガバナンス改革の一環として、株主利益を重視するということを鑑みて、株主へのリターンを明確にするということが趣旨です。
この点、日本企業が、よく短期的な視点に陥りがちである、といったような議論がなされますが、その点については、
・TSRにおける3つの戦略
をそれぞれバランスよく執り行い、株主へのゲインに応えていくことが苦手である、ということだと理解しています。
一因としては、そもそもの経営者、役員陣が欧米系の企業と異なり、報酬制度が異なる、と言う点が背景として存在しているでしょう。
特に、国内企業は、3つの戦略のうちでは、マルチプル変化・投資家戦略として、そもそも指標の管理が苦手、指標自体を単独で捉えてしまっているといった点で課題があります。
たとえば、ROIC、ROE、ROAといった利益を基準とした指標、キャッシュフローベースで価値を測るEV(企業価値)/EBITDA倍率、特に昨今ではスタートアップ企業の赤字のままでの上場へのアローワンスが高まったこともあり、株価指標として、PER、PBRに加え、PSRといった指標も目にする、使われるようになりました(直近では少なくなってきていますが)。
これらは単独で使う、見てもバランスを欠いてしまうため、それぞれの指標をダッシュボード上で、常に一定以上の「期間比較」と「企業間比較」を意識したうえで、使用する必要があります。
また、事業戦略でも、得意なことは買収側のM&Aによるシナジーを生むこと、である場合が多いのですが、そもそもポートフォリオの差し替え、選択と集中、スクラップアンドビルドが念頭に置かれていない企業経営、企業経営者が多いことも事実です。
この辺の整備を、平常時に行えていたのか、ということが、ひいては、緊急時に、どの指標を重視し、ポートフォリオをどう差し替えていくべきか、といった議論にならず、今回のようなコロナ禍の異常なほどの速度で広まる不況にも、スピード感を持って対処対応できない理由ともなっていると思います。
TSR(株主総利回り)の構造
まとめ
今回は、まずは、戦略の全体像の俯瞰、そして、TSRを用いることで、平常時の全体像を把握、理解したうえで、初めて、緊急時、今回のコロナ禍のような状態においても、なぜ、
・キャッシュ
を重視し、キャッシュを重視すべきときに、M&Aであれば、どうしてストラクチャーで売却、譲渡、また第三者割当増資による資本構成の抜本的な見直しが必要になるのか、といったことの真の理解に至らない、と考え、まとめることとしました。
それぞれのお話、不況時のM&Aストラクチャーの具体版は、また記載したいと思います。