パイオニアの非上場化(ゴーイングプライベート)~非上場化の論点①~
IPOではなく非上場化
パイオニアという会社をご存知でしょうか。
名前の通り、オーディオ機器のパイオニア的存在です。
直近では、カーオーディオ、カーナビなどを手掛けていますが、
売上高3,654億円
当期純損失72億円
(いずれも2018年3月期)
と業績不振に見舞われていました。
そのパイオニアは国内有数の上場企業の1社でしたが、このたび
「非上場化」
の決断をしました。
この非上場化、IPOすなわち株式公開・上場の反対なのですが、そもそもどういうことでしょうか。数回に分けて、論点を3回に分け探りたいと思います。
パイオニアはファンド傘下に
経営再建中のパイオニアは7日、アジア企業に投資するアジア系投資ファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの傘下に入ると発表した。ベアリングが総額で1020億円を投じて買収する。パイオニアはベアリングの完全子会社となり、上場を廃止する。3000人規模の人員削減に踏み切るほか地図とデータを組み合わせた新ビジネスで再建を図る。
(日本経済新聞2018/12/7 20:03 記事より抜粋)
パイオニアにおいては、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジアという「プライベートエクイティファンド」いわゆるファンドが買収(M&A)をし、当該ファンドの傘下において経営再建を目指すということです。
上場廃止の理由
上場を廃止する、とありますが、上場していた会社がそもそも非上場化することのメリットは何でしょうか。
よく、通り一遍ですが挙げられることとしましては
・ステークホルダーが限定されるため経営の自由度が増す
⇒ゆえにドラスティックな改革がしやすくなる
・監査法人や証券市場、またコーポレートガバナンス等に係る「上場維持コスト」がなくなる
⇒上場に係る様々なコストがカットできることで販管費の一部が下がる(効果限定的)
などがあります。
この中でも経営の自由度が増す、ということを主目的とする非上場化が多いでしょう。
有名な話には、ワークスアプリケーションズ牧野社長が、鳴り物入りでローンチした「HUE」というERPシステムは、莫大なコストがかかるため、上場をしていた前提では、開発からローンチまで達成できなかったであろう、と言われています。
パイオニアの記者会見でも
「早期に色々な改革をするには非上場となるのが必然だった」
と森谷パイオニア社長は語っています。
経営改革の手法としては、やはり大型なリストラの推進となります。
ここのところ世間を騒がせている日産のゴーン氏の異名は「コストカッター」でした。
上場廃止後の再建へ向けたアクション
経営不振に陥る会社の特徴は、貸借対照表、主に、バランスシートに顕著に表れ、成長のための資金が不足してしまい、悪循環に陥ってしまうため、構造的な改革が必然となります。
「営業キャッシュフローの創出」
・過大、無駄なコストを削減する、切り詰めた経営への切り替え
「投資キャッシュフローの改善」
・バランスシート上の不要な資産の切り売り
⇒設備系などは二束三文ですが生産設備・工場設備・工場用地の売却などがあります。また、主にグループのコア事業、ノンコア事業などを決め、ノンコア事業の譲渡・売却というM&Aが手法としてとられます。
⇒パイオニアは今後は地図情報データなど、恐らくAI・データの利活用に再投資していくと記載がありましたので、旧来型のカーオーディオ製造部分などを限定的に切り売りする可能性が高いでしょう
ちなみにカーオーディオ業界は、軒並み経営再建等を図っており、直近ではクラリオンがフランス資本の傘下になりました。
・新規投資の限定・抑制
⇒人財投資の抑制
「財務キャッシュフローの正常化」
・借入金の課題・過剰な部分はカットしてもらう(返済猶予を長めにとってもらう、いわゆるリスケなども)
⇒今回のパイオニアは「DES(デット・エクイティ・スワップ)」という債務部分を資本化することを実行、返済義務をなくし、金利負担もなくなる動きをとった
最終段階として、筋肉質化した会社で
「営業キャッシュフローの良化」
・抑制投資から正常化した中で、金融機関の支援などにより、再度「成長投資」へのキャッシュフローを投下し、営業資金として獲得できるようにする
こういったステップが経営再建のアクションとなります。
まとめ
上場廃止の理由と、上場廃止後のアクションについては述べましたが、
については、これまで上場していた会社が非上場化するために、既存株主は投下資本の回収が、ファンドが購入する既存株式(潜在株式も含む)への買収資金に限られてしまうため、株主としてのアクションが制限を伴います。
また、2005年以降に流行した非上場化は、ワールド、レックスホールディングスなど含め、上場後もオーナー経営者などが経営に関与するパターンがあり、非上場化前においてどういった経営施策をとってきたのか、が非常に重要な論点になり得ました。
これは「買収価額」をある意味コントロール可能な立場にあるため、いわゆる既存の一般株主に対して利益相反行為に陥ることもありえるから、です。
この点、18年12月7日のパイオニアの株価終値よりも、「安価」な金額でファンドが買収するため、どう説明をするのか、現経営陣の行動につき今後注視が必要でしょう。
この点は難しい論点ですので、別のときに記載いたします。