カルロス・ゴーン氏の逮捕~金融商品取引法違反は逮捕出来るのか!?~
【総まとめ】
✔︎カルロス・ゴーン氏、グレッグ・ケリー氏は、直接的には金融商品取引法違反の疑い(2018年11月20日)
✔しかしながら、記載欠如の50億等は「支払予定額」と「役員退職慰労金」に該当する可能性も(2018年11月25日)
→この場合、虚偽記載を問えるのか、は疑問
✔カルロス・ゴーン氏、グレッグ・ケリー氏は両名ともに容疑を否定(2018年11月25日)
✔︎日産の他の経営陣のクーデターとも取れるが会社は否定(2018年11月20日)
✔︎司法取引で、関係する一部の人間の罪を軽くしたとも(捜査協力により刑事処分を減免)
✔しかしながら、ここまで大がかなりな仕組みを他の役員が「知らなかった」では当然済まされない
✔︎会社の報道の用意周到さから、より組織ぐるみの不正の可能性があるのでは
✔︎ルノー黒幕説も。日産との合併を急ぐルノー(仏政府大株主)
✔︎仏大統領マクロン氏、仏としてルノー大株主として日産や三菱自動車併呑虎視眈々(国家間の思惑も?)(2018年11月21日)
【以下、一部日経より抜粋】
東京地検特捜部は19日、仏ルノー・日産自動車・三菱自動車の会長を兼務するカルロス・ゴーン容疑者(64)ら2人を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕した。ゴーン会長は自身の報酬を過少に申告した疑いを持たれている。日産は同日、ゴーン氏に「複数の重大な不正行為」が認められたとし、ゴーン氏の会長職などを解くことを取締役会で提案すると発表した。
【以下、今朝の日経も一部抜粋】
ゴーン会長がベンチャー投資名目で海外子会社を作り、自宅用の高級住宅を購入させていた疑いがある。関係者によると、日産は2010年ごろ、オランダに子会社を設立。資本金約60億円は日産が全額出資した。社内会議ではベンチャービジネスへの投資が目的と説明されていたが、目立った投資実績は確認されていないという。一方、10年以降、この海外子会社の資金を使って、ブラジル・リオデジャネイロの高級マンションとレバノン・ベイルートの高級住宅が相次いで購入され、いずれもゴーン会長に無償で提供された。購入費に加え、維持費や改装費も日産側が負担しており、総額は20億円超に達するという。
さて、驚きのニュースですが、上場企業のM&Aでも、公開買付、インサイダー取引などで確認事項として重要な金融商品取引法、この違反とは、どれほどの罪なのでしょうか。
複数の重大な不正行為、との記載があるが、自らの報酬を過少に申告、とあるが、通常は、有価証券報告書という投資家向け、我々株主でもない、一般人も見ることが出来る会社にとっての「情報公開資料」において、不正を働くことが出来るのでしょうか。
答えは、
「難しい」
と言わざるを得ませんが、少しずつ考察したいと思います。
まずは逮捕の背景を推察・確認します。
不正行為の内容は?
まだ公式な発表はありませんが、大きくは3つの不法行為責任に問われるのではないかと考えられます。
1.金融商品取引法違反(有価証券報告書虚偽記載 金融商品取引法第197条等)
2.会社法上の特別背任罪・忠実義務違反(代表訴訟の対象にも。会社法960条)
3.所得税法違反(所得税法第238条)
「有価証券報告書の虚偽記載」とその他にもゴーン氏については日産の資金を私的に支出するなどの複数の重大な不正行為が認められ、ケリー氏がそれらに深く関与、とは上記の通りとのことです。
また、下記の通りゴーン氏は役員報酬を届け出していますが、その金額の差が50億円もあるとのことです。
不正行為の内容はまだ、現時点では公表されていませんが、表立って出ているこの
「金融商品取引法」
の中に、
「有価証券報告書の虚偽記載」には、直接の罰則事由が存在しています。
事実が本当であれば、以下の法律の違反適用となります。
・課徴金
・罰則(刑事罰)
今回、東京地検特捜部が動いたとなると、刑事罰の適用、よほど重大な罪が発覚していた、と言うことでしょう。
東京地検特捜部となると大ごとである理由が実はあります。
(下記の表は、事業年度(第119期)自 平成29年4月1日至 平成30年3月31日 有価証券報告書 の役員の報酬等より抜粋し、筆者がマーカーを付したものになります。)
本来は証券取引等監視委員会の仕事?
東京地検特捜部による逮捕、と報道にありますが、本来は「証券取引等監視委員会」にも犯罪調査、警察同等の権限があります。
つまり、逮捕が可能です。
開示書類の虚偽記載等については、犯則事件に該当し、証券取引等監視委員会による犯則調査の対象であり、その職員は、任意調査として出頭、質問、物件の検査・領置、団体照会をすることができます。
さらには、裁判官の許可状を得て強制調査としての臨検、捜索、差押えができるとされています(金融商品取引法210条、 211 条等)。
これらの犯則調査の結果、犯則の心証を得たときは、委員会は告発を行わなければならず 、検察官の起訴によって刑事裁判手続に移行していきます(金融商品取引法226条 1 項)。
今回、東京地検特捜部による逮捕、と言う点、重要かつ悪質な行為がほかにも出てくるかもしれません。
【まとめ】
現時点、2018年11月25日(15時現在)における報道内容で、今後もあまり変わることのない範囲で、カルロス・ゴーン氏の罪状に該当する内容をまとめてみました。
要は、金融商品取引法という「投資家(株主)」を保護するため、投資家を保護することで、広く、証券市場において取引が公正かつ適切に運用されていくことを守っていくための法律で、
簡単に言えば、
「投資家を欺いた」
という行為の罪の重さによって、課徴金、刑事罰等が課されていくことになっています。
カルロス・ゴーン氏の逮捕。
東京地検特捜部が動くことが、何か金融商品取引法以外の事件性も示唆しているような気がします。
一方で、ニュース速報の流れた当日17時台から10分刻みくらいでの次々報道があり、21時には用意周到な記者会見、と日産側では「事実を把握していたと見られる動き」があるように思えました。
まだ結論は出ませんが、そもそも、有価証券報告書の虚偽記載で、
・役員報酬
とありますが、個人的には、
・報酬支払い額と記載額
が一致していないことを、役員会メンバー、会社の経理、財務並びに監査法人全てがスルーするものでしょうか?
個人的には、無理だと理解しています。
より組織ぐるみの不正や膿があり、ゴーン氏をスケープゴートにしたのでは?
そんな穿った見方も出来なくはないかもしれません。
また、虚偽記載と報道している内容も、徐々に「支払予定額」であったなどとの報道もあり、錯綜している面も否めませんが、ここにきて、虚偽記載の重要性が乏しくなりつつあるのかもしれません。
以下は条文の参考です。
お時間のある方はご覧ください。
【参考】金融商品取引法 課徴金規定
有価証券報告書の虚偽記載だけであれば、以下が該当すると思われます。
・適用される法律
「金融商品取引法第172条の11」
「金融商品取引法第172条の12」
・内容
(内容)虚偽等のある発行者等情報を提供等した発行者
(課徴金額の算定方法)当該発行者等情報が公表されている場合、当該発行者が発行する算定基準有価証券の市場価額の総額の10万分の6又は600万円のいずれか高い額
(内容)虚偽開示書類等の提出に加担
(課徴金の対象者)開示書類提出者等が虚偽開示書類等を提出、提供、公表することを容易にすべき行為(特定関与行為)を行なった者
(課徴金額の算定方法)当該特定関与行為に関し手数料、報酬その他の対価として支払われるべき金銭その他の財産の価額に相当する額として内閣府令で定める額
ここまでは全て課徴金の内容ですが、上記の適用がなされる可能性が高いです。
一方で、金融商品取引法には、課徴金と併科(両方課すよ、という意味)において、第8章に罰則を設けています。
【参考】金融商品取引法 罰則規定
今回のカルロス・ゴーン氏の逮捕報道を受けると、以下の適用があるのではないでしょうか。
・適用される法律
「金融商品取引法197条 1 項 1 号」
「金融商品取引法207 条 1 項 1 号」
・内容
重要な事項に虚偽の記載のある有価証券報告書(添付書類を除く)を提出した者は、有価証券届出書等の場合と同様に 10 年以下の懲役若しくは 1,000 万円以下の罰金又はこれらが併科される。
両罰規定に該当する場合、法人に対しても 7 億円以下の罰金が科される。
ここで、両罰規定と言うのは、悪質な行為に対しては、課徴金と刑事罰の双方が課される、ダブルで罪に問うよ、と簡単に言うとそういうことです。
一部報道では、50億円近くも過少申告をしていたとの報道があります。
この罰則適用の余地も大きいでしょうし、ほうどうにある「不正行為」がほかにもある、とのことですので、それを受けると、未だ余罪が出てきそうです。
以下に簡単にまとめました(法条文より 弊社作成)。
金融商品取引法 罰則