赤字企業の背景には何があるのか?②~スルガ銀行からの考察~
経営危機の原因と言っても様々
スルガ銀行が11月14日発表した2018年9月中間連結決算において、親会社株主に帰属する中間純損失(△) 985億円の赤字(前期は211億円の黒字)に転落しました。
スルガ銀行というとなじみのない方もいらっしゃるかと思いますが、静岡県から神奈川県にかけて有力な地銀で、彼ら自身もM&Aで地域の地銀、信組、信金などを合併して事業を拡大し、主にリテールバンク(個人向けの融資等)に特化し、一時は地銀の中の「ロールモデル」、「ベストプラクティス」などと良い意味で採り上げられていた銀行です。
そういった意味では、ここ数日採り上げています、RIZAP(ライザップ)グループと同じく、「時代の寵児」と、もてはやされていた企業と言えます。
それが一体全体、何が起き、約1,000億円ちかい赤字を計上するに至ったのでしょうか。
企業不正が招く「赤字」 その背景
読者の皆さんは、「かぼちゃの馬車」という名称を聞いたことがありますか?
スルガ銀行の赤字要因の主な理由には、この「かぼちゃの馬車」問題を少しひも解かなければなりません。
「かぼちゃの馬車」は株式会社スマートデイズは、都内を中心に女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していた会社で、2012年8月設立、2017年3月期売上高300億円と急成長した不動産会社ですが、なんと2018年5月15日は破産手続開始となりました。
このシェアハウスは「個人向けの投資用不動産」の物件として、主に、個人消費者が自分で住むのではなく、シェアハウスの物件を買って、その物件からの賃料収入で投資を回収するいわゆる「投資物件」でした。
このスマートデイズの購入時の資金融資の主たる金融機関が
・スルガ銀行
であったのです。
「かぼちゃの馬車」のサブリース
シェアハウス「かぼちゃの馬車」は、単に購入者が投資用に買って、運用した、とは異なっておりまして、少し難しい話なのですが、
「サブリース」
と言う仕組で運用していました。
簡単に言えば、
①シェアハウス入居者
②不動産会社(「かぼちゃの馬車」のスマートデイズ)
③購入者(物件のオーナー)
が存在し、③オーナーは、②から言葉巧みに「利回り8%、30年間家賃保証」という謳い文句で契約し、オーナーに対して、例えば、10部屋あった場合に、8部屋は賃料保証します!、と言った形で、「物件の賃料保証をする仕組み」で、購入をあっせんしていました。
(下図、弊社作成をご参照ください)
①の入居者は、賃料を②のスマートデイズに支払うのですが、そもそも物件も違法建築ぎりぎりのものが多かったり、決して住み心地が追求されたものではなかったようですが、その支払った賃料から手数料を差し引いて、賃料保証をしていく、と簡単に言えば、また聞いているだけでは
「物件購入者にとって非常においしい話」
でした。
サブリースの破綻
しかし、サブリースは
購入者側のリスクとして
・サブリース賃料の保証額の改定リスクがある
・満室時の収益が低くなりやすい
・老朽化により修繕費を請求されるケースがある
不動産会社側のリスクとして
・空室が埋まらなければサブリース賃料の払い損になる
が存在しており、当然、リスクフリーではありません。
しかしながら、スマートデイズは、購入者に対して、詐欺まがいの勧誘、謳い文句、そして挙句の果てには、購入者に
「銀行の融資は安心して受けることが出来ます」
のような話をしたうえで、金融機関に対しては
「預金通帳の改ざん」
「資産残高の水まし」
などを購入者も理解したうえで、または勝手にスマートデイズ側で、融資が受けられるように、不正を働いていました。
購入者は、これで購入ができたのですが、当然、スマートデイズも、入居者がいなければ、賃料が入ってきませんので、購入したオーナーへの支払が滞ってしまいます。
入居者は上記の理由で、あまり芳しくなかったため、オーナーに購入させては、サブリースの保証の率等を切り下げていく、改訂していくなどで乗り切っていましたが、結局、たまりにたまったオーナーへの支払債務が払うことが出来ず、
「破綻に至った」
ということです。
スルガ銀行は融資に当たりどう対応していたのか?
スルガ銀行は、上記のサブリーススキームで、スマートデイズの不正を知らなかったのでしょうか?
報道を見ていると、
「不正の水増しなどを知っていたうえでの融資をしていたのでは」
という疑惑があり、現在も金融庁が事実関係を調査しています。
これを受けて、2018年10月5日、金融庁より2018年10月12日~2019年4月12日までの半年間、新たな投資用不動産に対する融資を停止する処分が下りました。
スルガ銀行の赤字の背景
金融機関は、融資をし、そこからの「利息」を主な収入源にしています。
今回スマートデイズ及びグループ企業向けには1,500億円近い融資をしていたとのことで、更に、第三者委員会の調査ではスルガ銀行の不正融資は積極的に行われていたとのことで、なんと1兆円近い規模になるとの報道もありました。
さて、これが焦げ付き、さらには、新規で投資用不動産に対しての融資が出来ないとなると、どうなるでしょうか。
そうです。
通常の企業における「営業行為」の結果である「売上」、金融機関で言えば「利息」が取れない、また、過去の貸し出したお金も回収が出来ない、新規の「売上」も作れない、という三重苦に見舞われます。
こういったことを背景に
・経常収益の減少(ここは前年比較では、約1%減少なので、軽微と言えます)
・焦げ付くであろう資金に対して、予め「引当金」を計上し、費用計上
したことが相まって、今回の
「985億円の赤字」
に転落したことになります。
スルガ銀行の決算発表では、十分すぎるほどの引当金を計上した、ような発言がありましたが、上記の不正融資の1兆円の金額が真実であれば、引当金の計上金額の妥当性は闇の中です(もっと引当金を積む必要がある、または焦げ付いて今後損失計上する恐れもある等)。
(表は、出所:スルガ銀行株式会社 2019年3月期第2四半期決算短信 より 黄色マーカーは筆者加工)
まとめ
今回は、企業の赤字の中でも、
「不正を中心として自らの会社を危機に貶めた」
ケースで、スルガ銀行とかぼちゃの馬車運営会社スマートデイズの件を解説しました。
経営戦略上における「投資の失敗」ではなく、企業の健全な運営から逸脱をし、不正行為により利益を上げようとしていた行為により、企業のブランドイメージ含め、大きなディバリュエーション(企業価値の毀損)を引き起こした例です。
こういった不正は、当然、経営の失敗よりも悪質ですし、透明性・信頼性を担保すべき金融機関で起きた事としては、近年まれにみる悪質な行為であったと言えます。
企業価値の構成要素は、日々の営業活動の積み上げであるともいえますが、自社の企業価値の向上へ向けたアクションとして、誠実に対応していくこと以外、道はない、と筆者は考えています。