現金をもらわない・払わないM&A
現金を使わないM&Aは可能なのか?
今回は、M&Aによる事業承継時には主に「現金をもらってイグジット」と言う発想がほとんどだと思いますが、実は「現金を使わないでもM&Aはできる?」についてお話したいと思います。
現金の代わりに「株式」は可能か?
結論から申し上げますと、「可能」です。
M&Aを使った事業承継では、長年事業を営んでこられた企業経営者の方々で、後継者がおらず、その選択肢の一つとしてM&Aを採り、売却に際して「現金」で受領する、が一般的です。
しかし、弊社で見てきた事業承継後の元オーナーの方々は、即座に現金を使ってしまう、と言うことにならないケースが多く、金融機関などが絡んだ案件ですと、入ってくる現金とセットで
「上場株の●●を購入しませんか」
「不動産の利回りが●●ですが、いかがですか」
と提案営業をしてくるため、結局現金が、他の資産に置き換わることも多く見受けられます。
また、売却側のオーナーにおいても必ずしも
「現金をもらう必要があるのか」
については、いくつもの事例を見てきましたが
「すぐさま使うのではなく、今後の相続時に渡していきたい」
「おいおい使い道は考える」
など、即座に対価としての現金を使用しなかったケースも見られます。
当然、キャッシュ・イズ・キングなわけなのですし、仮に上場会社の株でもらった場合、下落のリスクもあるので、最善の方法かと言われれば、個人的には
「キャッシュ・イズ・キング」
が正解であると考えています。
しかしながら、即座に使わない、またいずれにしてもリスク資産に投資してい、とおかんがえのオーナーも少なからずおり、売却をする相手が、上場会社である、または非上場会社であるが、上場を目指しており非常に勢いがある会社である、などの場合に、その会社の株式を貰い受けることなどができないのか、ということが論点としてあります。
冒頭の通り、可能なのですが、これまでは幾つかの規制があり、現金対価(現金での受領)以外のM&Aが実質的には難しい状況であったのが事実です。
これが、産業競争力強化法等の一部改正により大きく事情が変わりました。
(画像 出所:「経済産業省平成30年度経済産業関係 税制改正について」)
株式を対価にしたM&Aとは?
株式を対価にもらう場合に、実は今年の7月までは、
・株式を対価にもらって換金が出来ていないにもかかわらず「即課税(税金を取られる)」
・譲渡側での手続きが面倒くさい
(現物出資となるので、原則、要検査役調査(会社法207条)、取締役の不足額填補責任(同212条、213条)、買収側がプレミアムを乗せて株式を対価とした場合、「有利発行」となり株主総会の特別決議を経る必要があり(同同法199条2項、3項、201条1項、309条2項5号))
・・・、と一言でいうと、面倒くさいし、現金をもらっていないのに税金は取られるし、でメリットがありませんでした。
この点、会社法では「株式交換」という制度がありますが、これは、あくまで相手の会社を完全子会社化することで用いられるケースでした。
株式の一部を対価として支払うなどの適用には、上記のような制限があったのです。
それが今年2018年7月9日より、上述のような会社法上の現物出資規制、有利発行規制等の適用を回避できる会社法の特例の適用要件が緩和、
「対象会社の株主に対する課税繰延べに関する規律(特別事業再編計画)」
が創設されました。
ここで、重要なのは、認定を受ける必要性がある、と言うことでしょうか。
やはり、単純に株と株を交換しました、ではNGでして、しっかりと認可を受ける必要があります。
「特別事業再編計画」http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/180604_gaiyou.pdf
(出所:経済産業省 産業競争力強化法における事業再編計画の認定要件と支援措置について」5頁)
まとめ
株と株の交換ができる、となり、ベンチャー企業におけるM&Aも活発になりますし、また、TOB(株式公開買付)における、株式の一部対価の支払いによる再編も進むことが想定されますが、依然として、会社法上の規定ではないため、今後の法改正が予定はされておりますので(平成30年2月14日「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」、「株式交付」制度を導入検討)、そこまで待つか、というのも一案かもしれません。
まずは、株を対価にするにせよ、現金を対価にするにせよ、価値の算定をしてみてはいかがでしょうか。