SPAC(特別買収目的会社)について①
【2023年1月更新】 【米国で流行りのSPACとは?】
今日は、米国の証券市場で、2020年の上場数が50社を超え、およそ3兆円以上の資金調達が実施された流行ともいえる
『SPAC(特別買収目的会社)』 について説明します。
【SPACについて】
特別買収目的会社(SPAC=Special Purpose Acquisition Company)とは、未公開会社の買収を目的として設立される法人のことで「SPAC(スパック)」と呼ばれます。
SPACは、上場時点では、自らは事業を行なっていないペーパーカンパニー、言わば「空箱」であり、上場後に、株式市場から資金調達を行い未公開会社の買収を行います。
特徴として、著名な経営者や過去業界で上場したことのある人物などが経営陣として招聘されることが見られます。
SPACの上場後に買収された未公開会社は、従来の上場のプロセスを行わずに上場することになり、厳格な
・証券会社審査
・監査法人監査
・取引所における「申請」、「審査」、「承認」
などを経ずして、実態としては上場していくこととなります。
【直近の米国の上場事例】
今年に入ってからの事例では、動画メディアを運営する
・「グループナイン・メディア(Group Nine Media)」
が2020年12月に設立したSPAC「グループナイン・アクィジション・コープ(Group Nine Acquisition Corp)」として2021年1月15日に上場を果たしました。
最終的には事業会社である
・グループナイン・アクィジション・コープ
はグループナイン・メディアを吸収。
IPO(新規株式公開)により調達した資金でM&Aを実施していくとのことです。
また、更に直近の3月21日、不動産Tech(Proptech)企業である
・Offerpad(オファーパッド)
はSPAC(特別買収目的会社)との合併により公開することを発表した。
SPCであるSupernova Partners Acquisition Companyと合併し、公開する計画を発表、合併取引は30億ドル(約3,270億円)で評価されるに至りました(ニューヨーク証券取引所でOPADのティッカーで取引予定。)。
経営陣は、SPACを設立したスペンサー・ラスコフ氏が率いますが、氏は、シリアルアントレプレナーでHotwire、Zillow、dot.LA、Pacasoを共同で設立し、ZillowではCEOをほぼ10年務めるなど、米国における不動産Techのカリスマ的な存在であり、SPACの特徴の一部を満たしていると言えます。
【SPACはIPOの脱法的な行為なのか?】
結論は「脱法とは言えない」ということとなります。
SPACが通常のIPOに比べ好まれるケースとして、
・SPAC経由のIPOは投資家からの圧力は少なく、上場をめざすSPACに事業の実体がなく、厳格に審査すべき対象が少ないと言う点が挙げられます。
SPACにも当然審査があるのですが、SPAC自体は非常にきれいな空箱の状態です。
日本国内の審査では実体なき会社の上場は不可能ですが、米国では、
・実体はないが、買収可能な有力な事業会社が存在することを前提
にSPACのような空箱の上場が認められているのです。
この点、上場ゴールでIPOにより早期に株式を売却したい創業者や、創業以降の投資家などは、メリットを享受できることとなります。
一方で、買収検討可能である有力な事業会社が見つかっている、当然ながらその買収対象会社(被合併会社)が存在していることも重要です。
この点がSPACが「買収目的会社」といわれる所以、と言えましょう。
(SPAC経由のIPOでは、名目上の会社SPACが投資家に対し、実体のある事業会社を将来的に買収して運営すると約束したうえで上場するのでブランク・チェック・カンパニー(白紙の小切手会社)とも呼ばれます。)
SPACだけ存在するということはなく、順序からいけば、
・SPACが買収する可能性のある「非常に将来有望な事業会社」
が存在していることを前提とし、
更に、直近のグループナイン・メディアの目論見書を引用すれば
・「最初に事業統合する対象をグループナイン・メディアのみと決めているわけではない」
とまで記載があり、他の候補も買収候補となっていることが示唆されます。
【最後に】
米国でも、実は法整備が途上であり、過去にも違法、脱法行為(出資法違反)は存在しています。
注目を集めるために、経営者を客寄せパンダ代わりに使うケースも見られます。
このような中、日本国内ではSPACの上場という事例はいまだ類を見ませんが、
・ソフトバンクグループの米証券市場でのSPAC設立
という国内企業の米国市場での動きとしては存在しており、未公開企業の買収が実施されればまた大きくニュースで報じられる可能性が高いと言えます。
今後の日本での導入に向けて、この動きが許容・歓迎されるのか、注視したいと思います。