不況時におけるM&Aストラクチャー
不況時に起き得る事象を考察
突然だが、筆者はリーマンショック、いわゆるサブプライムローンの焦げ付きを発端とした世界的な金融恐慌を体験した世代です。
新型コロナウィルスに端を発した現在の金融環境を見つつ、確かに類似している株価安、通貨安と、次に債券安とくれば、トリプル安となり、ますます状況は似てきます。
今回は、リーマンショック後に起きた体験と、それに関連したM&Aストラクチャーなどを語っておこうと思います。
リーマンショック後のM&A
リーマンショック後のM&Aとしては、比較的
・カーブアウト(切り出し)型のM&A
が多かったです。
カーブアウトは、もともとは、企業がコングロマリット(様々な事業を営んでいる状態。例えば、事業として、不動産事業とスーパーなどの小売事業、配送業などの物流事業を一緒に一つの会社が営んでいるなど)の状態にあるときに、それぞれの事業価値が正しく市場に評価されずに、企業全体の価値が、それぞれの事業価値の総和よりも低く評価されてしまう、コングロマリットディスカウントという状態を解消するための手法として使用される用語、です。
(なお、カーブアウトをして、子会社化した企業の上場をする、というケースも存在します。)
他方、カーブアウトは、金融恐慌などにより、企業の事業環境が著しく悪化したような場面において、事業として価値のあるものを切り出し、第三者に売却することで、キャッシュを獲得する行為としても有効な手法となります。
リーマンショック後のM&Aとしては、このカーブアウト型M&Aに多く直面しました。
カーブアウトのスキーム
カーブアウトというと難しく聞こえるかもしれませんが、手法としては、
・事業の譲渡
となりますので、
1.事業譲渡(会社法467条)
2.会社分割(会社法2条29号)
の2つが選択肢として存在します。
会社分割はさらに、新設分割と、吸収分割というスキームに分かれ、それぞれややこしいのですが、
・分割型分割
・分社型分割
という分割の対価を「誰に対して支払うのか」という論点によっても分岐します。したがって、理論上は、
・分社型新設分割
・分割型新設分割
・分社型吸収分割
・分割型吸収分割
と4区分になります。
ここで、分社型、は対価を「もともとあった法人」に対して支払うこと、を言います。
また、分割型、は対価を「もともとあった法人の株主」に対して支払うこと、を言います。
対価の受け取り方が分解されているのですが、ここは会社法では実は規定されておらず、
「スキームとして選択し得る」
という点は重要です。
・対価を株主が受け取る、または法人が受け取る
ということで、そもそも税金がどこにかかってくるのか、という観点で非常に重要な観点です。
新設分割や吸収分割、といったスキームの良しあしにつきまして、実は税務の観点が非常に大きいです。
今日は簡単にカーブアウトのスキームを説明するにとどめますので、次回以降に詳しくスキームを活用する場面などを説明したいと思います。
以上のような、スキームを選択し、事業を切り出し、特に景況が悪化しているときに、手元の資金の捻出のためにカーブアウトを実行する場合には、それらの切り出し対象の事業は、虎の子、ともいえる、非常に価値の高い事業であることが多いです。
カーブアウトし、会社化したうえで、第三者に譲渡をするのか、または、事業そのものを第三者に譲渡するのか、の違いがありますが、いずれにしても、その対価を得ることで、既存の事業や、もともとの中核事業(業歴が長い会社さんですと祖業といったりもします。)に選択と集中を図る、ということになります。
まとめ
リーマンショック後のM&Aとして、業績が著しく悪化したときに、金融機関が貸し出すをするかというと、その点はあまり期待できません。
このような場合、自社の虎の子、を見つけ、価値を見出し、切り出しをしていくということになるのですが、この選定作業、企業価値を向上させるスキームは、非常に難しい作業であるため、通常は専門家の起用をお勧めいたします。
弊社は、企業価値がつかない、金融機関からのファイナンスがつかない、といったクライアントに対して、再生の第一弾として、上記のカーブアウトを何件も成就させ、見事に再生を果たしていった企業を、多数ご支援してきました。
景況が悪化しかけておりますので、このような非常時だからこそ、経営者としての「備え」のためにM&A手法が存在する、ということも頭に入れておいていただければ幸いです。