M&Aによる事業承継③
M&Aによる事業承継の活用 ~業績不振の会社は事業承継ができるか?~
今回は、事業承継において、業績不振の会社がM&Aは出来るのか、出来るとした場合にどういった手法(スキーム)になっていくのか、についてお話していきます。
業績不振の会社のM&A 「突発的な理由による営業不振の会社」
業績不振の会社のその不振となっている状況は、それなりの「理由」が存在するはずです。
例えば、一時的な不振が特定の天変地変などが理由となり、操業を停止せざるを得なくなり、一時的な営業キャッシュフローが立たなくなってしまい、借入金が返済できなくなってしまった、利益も、キャッシュフローも回らなくなってしまった、などのケースは比較的国の助成・補助も、また金融機関の特別措置の適用などにより、一定期間のリスケジュール(返済期間の延長、一時的な返済の停止、金利の低減など)が適用されることもあるため、こういった突発的な事象を契機に、M&Aによる事業承継の対象となると言えます。
ただし、上記理由であったとしても、一時的な不振の最中に、M&Aを行い、事業承継を進めようとしますと、買収側の大きな負担となることはもちろん、利益やキャッシュフローが赤をベースに、企業価値算定、株価が算定されてしまうため、会社がどれだけ、不振となる前に素晴らしい企業であったとしても、相当程度株価が毀損してしまうことになることは容易に想定されます。
こういった場合には、グッとこらえて頂き、ご自身の会社での操業がある程度回るまで、少なくとも、黒字の目途が立つ状況までもっていくだけでも、株価が見違えるほどよくなりますので、このケースによる不振は
「売り時」
を誤らなければ、事業承継として円滑にいくケースといえます。
業績不振の会社のM&A 「時間軸として短期的に不振である会社」
突発的な事象を理由にして、赤字になっている以外に、自社の営業施策を誤った、製品のリコールが生じた、等業界における法的な視点でダメージを受けたなども含め戦略の見直しにより立て直しが見えている、または会社の中にある一事業部門は非常に業績が好調であるが、他の事業は総じて赤字であり、会社全体として赤字になってしまっている企業なども、手法(スキーム)次第で、事業承継を進めることが容易にできる部類です。
業績不振の会社のM&A 「時間軸として長期的に不振である会社」
また、一概に不振だと言っても、過去は好調であり、今が不振なのか、またはずっと不振なのか、などその不振であるという状況・期間も様々あります。
結論から申し上げて、長期にわたり、業績が振るわず、目の前の営業キャッシュフローも、今後の営業キャッシュフローも黒字になる目途もつかず、加えて、過去の投資負担が大きかったため、財務での借り入れを起こしており、その返済も滞っている企業については、
「M&Aによる事業承継が非常に困難であるケース」
と言えます。
自社の稼ぐ方向性を見直す、または財務の借り入れをまずは出来る水準まで、リスケジュールを図る、投資した資産が設備資産又は不動産などであった場合、売却をすることで一時的な営業立て直しの資金としてねん出する、など様々なことをしたうえで、その会社の本源的な価値を再構築していく必要があります。
譲渡できないものはない、と筆者は考えているため、今回のようなケースですと、事業再生(ターンアラウンド)フェーズを経て、事業承継を進めていく必要性が高いと考えます。
どのようなスキームを取っていくべきか
それでは、業績不振であり、理由も明確で、特に一事業部門は好調である、と言ったようなケースではM&Aのスキームはどのようなスキームをとっていくことがあるのでしょうか。
通常は、株式譲渡ではなく、立て直しが容易になるように、特定の事業部門のみを
「事業譲渡」
「会社分割」
という手法(スキーム)を用いることで、譲渡、承継可能性を高めていくことが出来ます。
このスキームの特徴は、BIZVALメディアの中でも触れていますので、こちらからご確認ください。
https://bizval.jp/media/news/017
事業の一部を切り離す、イメージで、この場合、株式譲渡と異なり、
「オーナー経営者=社長ではなく、会社にお金(譲渡代金)が入ってくる」
ことに大きな違いを意識する必要があります。
事業承継のケースでは、多くの会社や、M&A仲介などの業者が
「M&Aならばハッピーリタイアメント」
と歌っていることが多いのですが、現実は全くあまくなく、
「事業を他の会社に承継してもらい、個人の金融機関からの金融保証が外れた」
ことをもって、ハッピーである、と割り切って頂くケースもあります。
会社にお金が入ってきたものの、オーナー経営者が配当や、役員報酬で金銭を個人的にもらえる状況であれば、そういった清算配当など含め、手元資金として回収、譲渡対価に変えていくことも可能です。
ただし、ここで留意すべきは、
・会社が借入金を返済する余力があるのか
・従業員をすべて承継してもらえたのか
など、一部の事業、一事業部門を譲渡したことで、他の部門が残っている、良好な事業部門を譲渡・売却してしまったため金融機関の借入返済ができる目安がない場合などは
「事業承継が成功した」
と言えない状態になってしまいます。
また、金融機関にとって、勝手に営業キャッシュを生む源泉であった事業を売却されたうえに、会社は倒産させ、オーナーのみが売り抜けるようなことは
「詐害行為」
という事象とみなされ、事業譲渡という法的行為自体の取り消しができる権利がある点も、留意したいものです。
なお、スキームの詳細と、会社分割と事業譲渡の使い分けの詳細などは別の時にお話したいともいます。
まとめ
いずれにしても、事業譲渡をした場合に
「どの事業が対象になるのか」
「従業員の承継が可能か」
「会社に入る金銭面は自由になる金銭なのか、ならない場合、どれくらいの回収が可能なのか」
についてが事業譲渡における重要ポイントとなります。
いずれのケースにおいて、まずは、自社の株価・企業価値がそもそもいったいぜんたいいくらなのか、を把握し、そのモノサシをもってして、自社の事業譲渡の検討を行っていくことが必要です。
簡易算定から再度戦略の見直し、事業承継の可能性を模索してみてください。